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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第15回 発酵食品のパワー②味噌

前回は、食品を発酵させることにより、栄養価が高まること、栄養素の消化・吸収率が良くなること、保存性が高まり、風味やうま味が増すこと、そして発酵食品は、腸内環境を整えてさまざまな病気の発症を予防する効果があることを解説しました(第14回「発酵食品のパワー①」参照)。今回は、代表的な発酵食品である味噌の魅力に迫ります。

【味噌の基本】

味噌は、蒸煮(じょうしゃ)した大豆に、麹菌と塩を加えて発酵・熟成させたものです。千年以上にわたり、日本人の食生活を支えている伝統食品であり、和食の基本調味料である「さ・し・す・せ・そ」の「そ」にあたるのが味噌です。ちなみに、基本の調味料は、
さ・・・砂糖
し・・・塩
す・・・酢
せ・・・醤油
そ・・・味噌
であり、この順番で料理をすると美味しく仕上がるといわれます。

さて、今回のテーマである味噌には、地域によってたくさんの種類が存在しますが、原料である麹の違い、味の違い、色の違いによって分類することができます。

① 原料(麹)による分類
麹の種類によって、米味噌、麦味噌、豆味噌に分けられます。全国的に一番多く生産されている味噌は米味噌であり、仙台味噌や信州味噌、江戸前味噌がそれです。米味噌は塩分が少なく、麹が多いのが特徴です。麦味噌は、関東では大麦麹が、中国・四国・九州地方では裸麦麹が用いられます。前者の方が辛口、後者の方が甘口です。そして、代表的な豆味噌といえば、東海地方で食べられる八丁味噌。味が濃厚であり、他の味噌と比べて保存性に優れています。

② 味による分類
味噌は、味によっても分類できます。塩分の量と麹の量によって、甘味噌、甘口味噌、辛口味噌に分けられます。例えば、同じ塩分量である場合、麹の量が多い方が甘口になります。甘味噌は、関西地方の白味噌などのように、塩分が6%程度で、麹が多いのが特徴です。麦味噌は、塩分が10%程度で麹が大豆よりも多いのが特徴であり、これらは甘口味噌に分類されます。そして、米味噌や赤味噌は塩分が12%程度と多く、麹の割合が少ないため、辛口に仕上がります。

③ 色による分類
味噌は熟成期間の違いによって色が大きく異なり、熟成期間が長いほど、色が濃くなります。濃い赤褐色の八丁味噌や仙台味噌などは、1年以上熟成させたものであり、黄白色の薄い色の西京味噌などは、白味噌と呼ばれ、熟成期間が数ヶ月と短いです。その中間としては、信州味噌などの黄色味を帯びた、淡色味噌があります。この色の変化は、メイラード反応と呼ばれる、褐変反応によるもので、塩分とアミノ酸が反応することによって褐色に変化するため、熟成期間が長いほど色が濃くなるのです(図1)。

ちなみに、市販の味噌は未開封でも常温保存するとメイラード反応が起こって色が濃くなることがあります。この際には、色の変化だけでなく、風味が劣化することがありますので、味噌は冷暗所に保存することが推奨されているのです。

【味噌の歴史】

今や日本人の食事には欠かせない調味料である味噌。いつ頃から食べられるようになったのでしょうか。味噌の起源にはふたつの説があります。ひとつは、古代中国の醤(しょう)や豉(し)といった調味料が奈良時代に遣唐使によって伝えられたという説。もうひとつは、縄文時代から弥生時代にかけて住居で塩漬けされていた形跡が残っていることから、その頃から味噌を日本独自に発展させたという説です。

平安時代、味噌は贅沢品として、地位の高い人への贈答品に使われていたようです。貴重なものであるため、調味料としてではなく、酒の肴や嗜好品として楽しまれていたと考えられます。鎌倉時代に入ると、禅宗寺院では、味噌などの大豆製品が各種作られました。味噌が広く庶民の間に普及したのは室町時代であり、味噌汁の形が確立されたのもこの頃とされています。

現在のように調味料として認識されるようになったのは江戸時代。各地の風土や気候が反映された、熟成方法の違いによって、全国に多様な味噌が広まりました。工業的な生産が盛んになったのは明治以降であり、「味噌買う家は蔵が立たぬ」という古いことわざがあるように、昭和30年代までは、味噌を手作りする家庭が多かったのです。

【味噌の効能】

長い間、日本人に愛されている味噌は、さまざまなことわざに使われます。「味噌は医者いらず」「味噌汁は朝の毒消し」「味噌汁一杯三里の力」「味噌と医者は古い方が良い」など、健康に関することわざが多いように、味噌には、豊富な栄養素が含まれ、健康に良い影響があります(図2)。徳川家康が75歳まで生きた長寿の秘訣のひとつは、野菜たっぷり、五菜三根の味噌汁だとも言われています。 大根葉、春菊、せり、ねぎ、菜の花などの5種類の菜っ葉、白菜などの大根、ごぼう、里芋などの3種類の根菜を入れて作られたという味噌汁は、いかにも体に良さそうです。

味噌には、消化吸収の良い大豆タンパク質や、コレステロール値を抑制して動脈硬化の予防に効果のあるレシチンやサポニン、リノール酸が含まれます。また、イソフラボンにはホルモンバランスを整える作用があります。また、味噌は調味料の中でも食物繊維の量が多いことが特徴であり、食物繊維を含む食品として、発酵食品として、整腸作用が期待できます(図2)。

また、味噌には抗がん作用があるとも考えられています。1981年には、国立がんセンターの平山雄博士らによって、味噌汁を飲む人ほど胃がんによる死亡率が低いことが明らかにされました。また、2003年には、厚生労働省の研究班によって、1日3杯以上の味噌汁を飲む人で乳がんの発症率が40%低くなることが報告されています。

味噌汁には塩分が多いのに、高血圧にならないの?と疑問を抱く人も多いでしょう。共立大学の上原誉士夫博士は、同じ塩分量であっても、味噌から摂取する塩分は、食塩そのものよりも血圧が高くなりにくいことを明らかにしました。味噌には、塩分が多いものの、上記のような健康に有効な成分があるため、積極的に食べても良いと考えられています。

その他、味噌には、美肌効果や、動脈硬化症の予防、カルシウムやイソフラボンによる骨粗鬆症の予防効果などが期待できますので、毎日少しずつ食事に取り入れると良いでしょう。

【味噌を用いた献立例】

なす味噌冷やしうどん

赤味噌を使った料理です。なす、セロリ、豚ひき肉を炒めた後、赤味噌、みりん、砂糖などの調味料で味付けし、冷やしうどんにかけた料理です。

(栄養のポイント)
野菜、炭水化物(うどん)、タンパク質(豚肉、味噌)をバランス良く食べられます。
写真のように、レタスを千切りにしてうどんの上に添えると野菜もたくさん食べられて良いでしょう。
牛すじ土手煮

牛すじ、大根、こんにゃく、ごぼう、ゆで卵を八丁味噌で煮た料理です。八丁味噌は熟成期間が長く、風味が良いので、煮物に合うでしょう。

(栄養のポイント)
牛すじにはコラーゲンが豊富に含まれます。柔らかく煮て食べると良いでしょう。
大根、こんにゃく、ごぼうなどの食物繊維をたっぷり摂ることができます。
ゆで卵を仕上げに入れると、彩りも綺麗になります。
かぶとエビの白味噌和え

茹でたかぶとエビを、西京味噌(白味噌)を使った酢味噌で和えた料理です。白味噌は甘みがあるので、和え物によく合います。

(栄養のポイント)
和え物にするときは、野菜と動物性の食材を組み合わせるとより美味しく仕上がります。
(きゅうりとタコなどでも良いでしょう)
かぶには食物繊維が多く、グルコシノレートという、抗がん作用がある成分が含まれています。
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