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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第19回 食事で風邪対策

前回までの3回は、自律神経のバランスを整えることが健康な生活を送るうえで重要であることを解説しました(第16回「自律神経を整える」第17回「快眠生活で健康に!」第18回「時間栄養学 ~体内時計に基づく理想的な食べ方~」参照)。 自律神経バランスを整えるために、どうやって睡眠の質を向上させるのか、いつ何をどのように食べるのか、に気をつけながら健康を保つ秘訣をお伝えしました。

今回は風邪について。誰もが経験する風邪ですが、身近でありながら知らないことも多く、予防法や風邪をひいてしまった時の対処法について正しく理解していないこともあるのではないでしょうか。風邪を正しく知って、食事で予防と対策をしましょう!

【風邪とは】

風邪は、「急性上気道炎」という病気です。鼻水が出たり、咳が出たり、のどが痛くなったりと、上気道(鼻やのど)に症状が出る感染症を総じて「風邪」といいます。感染症は、一般的にウイルスや細菌などを含めた病原体によって引き起こされるものですが、「風邪」の症状を引き起こすのは9割以上がウイルスによるものであり、その種類は200種類以上と多岐にわたるため、どのウイルスが風邪の原因なのか、特定されることはありません。

ちなみに「抗生物質」と呼ばれるものは、細菌に対して効果を示します。風邪は大半がウイルスによって引き起こされるものなので、風邪の時に抗生物質を飲んでも効果はありません。ただし、風邪で免疫が低下している場合、特に子どもや高齢者の場合には、マイコプラズマという細菌が二次感染して肺炎を引き起こすことがあります。この場合、抗生物質が効果を発揮するでしょう。

【風邪・インフルエンザの感染経路】

風邪ウイルスはどのように人から人へと感染するのでしょうか?主に飛沫感染、接触感染 が知られています。

(飛沫感染)風邪をひいた人が咳やくしゃみをすることで放出されたウイルスを、鼻や口から吸い込むことによって感染します。くしゃみをすると1〜2mほどウイルスが飛散します。風邪をひいたらマスクをすることで周囲への心配りができますし、風邪を予防するためにもマスクは効果的であるといえます。

(接触感染)ウイルスに汚染されたものを手で触り、その手で目や口、鼻を触ることによって感染します。外出から戻ったらうがいや手洗いをしっかりしましょう。手洗いは石鹸をつけて20〜30秒かけてすると良いでしょう。

【風邪とインフルエンザはどう違うの?】

風邪は年中発症する可能性がありますが、インフルエンザは主に冬に限定されています。風邪の症状は鼻やのどを含む上気道に現れ、比較的ゆっくりと進行しますが、インフルエンザは全身に症状が現れ、急激に現れます。インフルエンザの症状は、風邪で認められるようなくしゃみ、のどの痛み、鼻水、咳の他に、全身の倦怠感や食欲不振、関節痛や筋肉痛、頭痛などを伴います。風邪もインフルエンザも、原因はウイルス。風邪はコロナウイルスやライノウイルス、アデノウイルスなど200種類以上のウイルスによって引き起こされる一方、インフルエンザはインフルエンザウイルスによって引き起こされます(表1)。

【ワクチンによるインフルエンザの予防】

インフルエンザは重症化すると、とても辛く、体力を消耗してしまいます。そのため、「ワクチン接種」や「予防接種」をしてインフルエンザを予防しましょう、といわれます。では、ワクチンはどうやってインフルエンザ予防効果を発揮するのでしょうか?インフルエンザワクチンとは、インフルエンザウイルスを不活化したものです。これを接種することによって、わたしたちの体の免疫システム(第12回「わたしたちの体を守る免疫」参照)を活性化させて、インフルエンザに対する抗体をあらかじめ作っておくのです。抗体ができていれば、いざインフルエンザウイルスに感染してしまっても素早く免疫が働くため、インフルエンザが発症しない、あるいは発症しても重症化せずに済むというわけです。

ワクチンの有効期間は接種後2週間から5ヶ月なので、インフルエンザが流行り始める12月以降に備えて10月〜12月上旬に接種するのが理想的です。

【風邪の予防方法】

風邪を予防するためには、マスクの着用、外出後のうがい・手洗いだけでなく、日々の生活環境や生活習慣も重要です。快適だと感じる温度は20℃、湿度は40〜60%が理想的です。また、冬になると外気はとても冷たいですが、建物の中や電車の中はとても暖かく、気温差が激しいです。脱ぎ着しやすい服装にし、必要以上に汗をかかないように体温を管理しましょう。また、運動不足や睡眠不足、ストレスは大敵です。しっかり運動して体力を増進し、疲れやストレスをためないようにすることで、免疫を正常に働かせることができるでしょう(図1)。

【食事による風邪予防】

  • 1日3食を規則正しく食べましょう
    朝食、昼食、夕食を一定時間に規則正しく、バランス良く、できるだけたくさんの食材を食べることが風邪予防に効果的です。特に、免疫力の維持に必要なビタミンC(レモンやみかんなどの柑橘類、いちご、緑黄色野菜、さつまいもなど)と、粘膜免疫を増強するビタミンA(にんじん、かぼちゃ、春菊などの色の濃い野菜やレバーなど)を食べましょう。

    ビタミンCは水に溶けやすく、食べ過ぎると尿中に排泄されてしまうので、毎日少しずつ摂りましょう。さつまいもやじゃがいもに含まれるビタミンCは加熱しても壊れにくいタイプです。焼き芋を食べてビタミンCを摂れるのは、焼き芋好きには嬉しいですね。

    ビタミンAは油に溶けやすいので、油と一緒に調理したり食べたりすると、より効率良く吸収することができます。

    おやつを食べる際にも、具の入ったおにぎりやパン、プリン、バナナなど、栄養補給ができるものを食べると良いでしょう。
  • 野菜をたっぷり食べましょう
    野菜は1日350g食べることが推奨されています。1日3食に分けて食べるとして、1食あたり120gずつ食べられないこともあるでしょう。特に朝食、昼食で十分な野菜が食べられない場合は、夕食にシチューや鍋など、野菜をたくさん食べられるメニューを取り入れて、野菜不足にならないように心がけましょう。
  • 体を温めましょう
    しょうが、ねぎ、にんにく、根菜、唐辛子、山椒などは体を温める食材として知られています。これらの食材を適宜食事に取り入れて、体を冷やさないように気をつけましょう。唐辛子やにんにくは、汗をかくほど食べるとかえって体を冷やします。汗はかかずに、体がポカポカと温まるくらいを目安に食べると、代謝が上がり、血行も良くなるでしょう。

    また、生野菜を食べるよりも、加熱したものの方が体を温めます。片栗粉を使ってとろみをつけ、食事が冷めないようにするのもおすすめです。

【風邪をひいてしまった時の対策】

どんなに予防に努めていても、風邪をひく時はひいてしまうもの。では、風邪をひいてしまった時にどうすれば良いのでしょう?正しい対策をとることで、より早く回復させたいものです。

(風邪のひき始めには)
のどが痛いかもしれない、風邪をひいたかもしれない、という時には、ビタミンCとビタミンAを意識して摂りましょう。また免疫を働かせるためにはエネルギーが必要です。たくさん食べて体力を失わないように心がけたいものです。豚汁や鍋物など、野菜たっぷり、肉や魚も食べられる汁物がおすすめです。のどが痛い時にはかりんや蜂蜜などで、のどに潤いを与えましょう。

(熱が出た時には)
熱があるのは、風邪ウイルスやインフルエンザウイルスに抵抗して免疫が活発化している状態です。汗をかくので、水分不足にならないように気をつけましょう。食事ができる場合は、ビタミンBを積極的に。肉や魚も食べてエネルギーを補給すると回復も早くなります。のどごしを良く、消化吸収を良くするため、十分加熱して食べましょう。脂肪の少ない鶏ひき肉で団子を作り、野菜をたっぷり入れてスープにすると食べやすいでしょう。

(胃腸風邪の時には)
症状が落ち着くまでは、無理に食べないで胃腸を休ませ、カリウムやナトリウムなどの電解質を含む水分補給をしっかりしましょう。食べられるようになったら消化しやすいものから食べ、なるべく油を使わないようにしましょう。だしを使ってお粥にし、梅干しと一緒に食べると消化吸収が良く、電解質も一緒に摂れます。

(インフルエンザの時には)
高熱によって体力を消耗するので、しっかりエネルギーを補給することが大切です。ただし、高熱が出ている時には食欲がないことも多いでしょう。そんな時には、スポーツドリンクに頼るのも良いでしょう。しっかり水分補給しながら、電解質不足にならないことが大切です。水分補給は、ほうじ茶、麦茶などのカフェインが少ないものか、スポーツドリンクで。梅干し粥の他、野菜をミキサーでペーストにしてスープにすると食べやすいでしょう。

【風邪予防のための献立例】

カレーうどん

かつおだしを効かせたカレースープにうどん、牛肉、ねぎ、にんじん、もやし、かまぼこ、ゆで卵を入れたカレーうどんです。

(栄養のポイント)
カレーには、スパイスがたくさん含まれ、血行を良くして体を温める作用があります。汗をたくさんかくと、かえって体が冷えますので、ポカポカと温かくなる程度の辛さが良いでしょう。
タンパク質(牛肉、かまぼこ、卵)と野菜をたっぷり摂ることができます。
かつおだしには疲れをとる作用があります。
れんこんのはさみ揚げ

薄切りにしたれんこんに鶏ひき肉をはさんで揚げ焼きした料理です。写真にはさつまいもを揚げ焼きしたものを添えてあります。

(栄養のポイント)
根菜には腸内環境を美しくし、腸内免疫を整える作用があります。油で調理すると便通が良くなるでしょう。
根菜には体を温める作用もあります。さつまいもなど、他の根菜を一緒に揚げ焼きして添えると良いでしょう。
菜の花の粒マスタード和え

菜の花を茹でて、少量のしょうゆとマスタードで和えます。

(栄養のポイント)
今が旬の菜の花は、栄養価が高まっています。旬の野菜を食べることが、効率良く栄養を補給するポイントです。
ビタミンAの材料であるβカロテンは粘膜を強くして、風邪予防に役立ちます。
ビタミンCも含まれ、免疫の維持に役立ちます。
ビタミンB1、B2が含まれるため、代謝を良くして、疲れがとれやすくなるでしょう。
菜の花には食物繊維も豊富です。
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