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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

栄養と代謝(8)脂溶性ビタミンの役割

第62 回から始まったシリーズ「栄養と代謝」では、私たちの健康に必要な栄養素とその代謝について基礎から学び、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしています。

シリーズ8 回目は、ビタミン、特に脂溶性ビタミンについて取り上げます。

【ビタミンとは】

ビタミンは、体内に存在する量も食事から摂取する量も微量でありながら、代謝を正常に行い、生命の維持に不可欠な栄養素です。体内で他の栄養素から合成されないため、外部から摂取する必要があります。1912 年に脚気や壊血病などの欠乏症の原因となる微量栄養素(現在のビタミンB1)が「生命維持に必要な(Vital)アミン類(Amine)」であるとしてVitamine と名付けられました。その後見つかったビタミンA やC にはアミン構造が含まれなかったため、1920 年に、「e」を外して「Vitamin」と呼ぶよう提唱されました。

ビタミンには、水に溶けにくく油に溶けやすい「脂溶性ビタミン」と、水に溶けやすい「水溶性ビタミン」が存在します。脂溶性ビタミンには、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンK が、水溶性ビタミンには、ビタミンB、ビタミンC が含まれます。さらにビタミンB には、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン(ビタミンB3)、パントテン酸(ビタミンB5)、ビタミンB6、ビオチン(ビタミンB7)、葉酸(ビタミンB9)、ビタミンB12 があります(図1)。

ビタミンは種類が多いため、今回は脂溶性ビタミンを、次回は水溶性ビタミンを取り上げて解説します。

図⒈ 脂溶性ビタミンと水溶性ビタミン
ビタミンには、水に溶けにくく油に溶けやすい脂溶性ビタミンと、水に溶けやすい水溶性ビタミンが存在する。

【ビタミンA】

ビタミンA は、レチノール、レチナール、レチノイン酸の総称です。食事中から摂取し、小腸から吸収されると、肝臓に蓄えられ、必要に応じてさまざまな臓器に運ばれます。

(ビタミンA の機能と欠乏・過剰による弊害)
ビタミンA は、欠乏すると夜盲症になることがよく知られています。明るいところから暗いところへ移動すると、直後は景色が見えにくいですが、しばらく時間が経つと徐々に景色が見えてきます。これを暗順応と言います。夜盲症は、暗順応が障害されることにより、暗いところで目が見えなくなる病気です。

また、ビタミンA は皮膚や粘膜を正常に維持するために必要であり、免疫機能を正常に保つためにも重要な栄養素です。不足すると、成長阻害や骨、神経系の発達抑制も見られ、皮膚の乾燥、角質化、免疫能の低下などから感染症にかかりやすくなります。乳児や幼児で欠乏すると、角膜感染症から失明に至ることがあります。最近の研究成果では、腸内でビタミンA の一種であるレチノールが増えると、腸に存在する免疫細胞がレチノイン酸に変換され、T 細胞やB 細胞などの免疫細胞を活性化、サルモネラなどの感染症を抑制することが報告されています(Science 373:eabf9232, 2021)。

このように、ビタミンA は欠乏や不足によって弊害をもたらす可能性がありますが、過剰に摂取することにより頭痛が生じる場合があることが知られています。また、妊婦が過剰摂取すると、胎児奇形が起こることもあります。過剰摂取による健康障害は、サプリメントあるいは大量のレバー摂取によるものと報告されているため(2020 年日本人の食事摂取基準)、サプリメントやビタミンA を含む食品の過剰摂取には注意が必要です。

(ビタミンA を含む食品)
動物性食品として、畜肉のレバー、うなぎ、鶏卵などにビタミンA が豊富に含まれます。また、にんじんやかぼちゃ、トマト、みかんなどの色の濃い野菜類にはαカロテンやβカロテン、βクリプトキサンチンなどのプロビタミンA と呼ばれるビタミンA の前駆体が存在しています。

これらのプロビタミンA は、色の成分でもあります。みかんやにんじんをたくさん食べると、手足が黄色くなるのを経験したことがあるかもしれませんが、それはみかんやにんじんに含まれるカロテン色素の沈着によるものです。食べなくなると尿中に排泄されて、元の色に戻るため、心配の必要はありません。

【ビタミンD】

食品に含まれるビタミンD には、ビタミンD2 とビタミンD3 があります。

(ビタミンD の機能と欠乏・過剰による弊害)
ビタミンD は、カルシウムの吸収を促進する役割があり、歯や骨を成長させるため、あるいは維持するために重要なビタミンです。また、神経伝達や筋肉の収縮にも関わります。

欠乏すると、骨の石灰化(骨を硬くすること)が抑制され、骨の変形や痛みなどの症状が現れます。小児で起こる場合を「くる病」、成人で起こる場合を「骨軟化症」と言いますが、いずれも骨の変形や痛みを伴うものです。

一方、サプリメントなどで過剰に摂取すると、高カルシウム血症となり、血管や腎臓にカルシウムが沈着して石灰化が起こることが知られているため、ビタミンD も過剰な摂取には注意が必要です。

(ビタミンD を含む食品)
ビタミンD は、干ししいたけや乾燥きくらげなどのきのこ類、鮭、しらす、イワシなどの魚類に含まれます。成人の1日の摂取目安は8.5μg、右の表を参考に摂取しましょう(八訂食品成分表2021 参照)。今回紹介するビタミンA、D、E、K の脂溶性ビタミンを含む食品は、特に植物性食品の場合、油を使って調理すると効率良く吸収することができるでしょう。

ビタミンD は、食品から摂取する以外に、日光を浴びることによって皮膚に存在するプロビタミンD3から作ることができます。そのため、日光浴をすることは体内のビタミンD 量の維持と、健康な骨の維持に重要であると言えます。この観点から、1日15 分を目安に日光浴をすることが推奨されます。気候が良くなってきたので、積極的に外に出かけて骨を丈夫に保ちたいものです。

【ビタミンE】

ビタミンE には、4 種のトコフェロールと4 種のトコトリエノールの合計8 種類が存在します。
それぞれ、4種類は、α(アルファ)、β(ベータ)、γ(ガンマ)、δ(デルタ)です。

(ビタミンE の機能と欠乏・過剰による弊害)
ビタミンE には強い抗酸化作用があり、同じく抗酸化作用を有するビタミンC、免疫賦活作用があるビタミンA とともに、ビタミンACE(エース)とも呼ばれます。ビタミンE の抗酸化作用は、動脈硬化の抑制にも働きます。またビタミンE には、赤血球の破壊を抑制する作用もあります。

ビタミンE の欠乏は、動脈硬化を促進し、シミやシワなどの皮膚のトラブルや、冷え性、頭痛、肩こりなどを引き起こします。ビタミンA やビタミンD とは異なり、ビタミンE は脂溶性ビタミンでありながら体内に蓄積しにくいため、過剰摂取による弊害は起こりにくいとされています。一方で、過剰に摂取することにより、血が止まりにくくなることや下痢が起こることも報告されており、やはりサプリメントでの摂取には注意した方が良いと考えられます。

(ビタミンE を含む食品)
ビタミンE を多く含む食品には、かぼちゃ、パプリカなどの緑黄色野菜、モロヘイヤ、アーモンドなどのナッツ類、オリーブオイル、米油、アボカドがあります。

【ビタミンK】

ビタミンK には、ビタミンK1 とビタミンK2 が存在します。

(ビタミンK の機能と欠乏・過剰による弊害)
骨形成や血液凝固に重要な役割を果たしています。ビタミンK1は、骨へのカルシウムの沈着を促進し、骨形成(骨を作る)に関与しています。骨の形成にはカルシウムが大事であることはよく知られていますが、カルシウムの摂取だけでなく、カルシウムの吸収を促進するビタミンDと、体内に吸収したカルシウムを骨へ吸着させるビタミンK1を一緒に摂取することで、より効率良く健康な骨を維持することができると考えられます(図2)。実際、ビタミンK1 の代謝物であるメナキノン-4 は骨粗鬆症の薬としても使われています。

図⒉ 骨の健康を保つ栄養素
骨の健康を維持するためにはカルシウムだけでなく、ビタミンD、ビタミンK2の摂取がポイントとなる。

ビタミンK2は血液凝固に重要です。ビタミンK2は胎盤を通じてお母さんから胎児へ移行しにくいため、新生児や乳児で不足すると、消化管や頭蓋内で出血があった時に出血が止まらないことが問題になることがあります。一方、食事から摂取できるようになると、健常であれば腸内細菌によっても合成されるため、不足することは稀であり、多量に摂取しても健康被害はないとされています。

(ビタミンK を含む食品)
ビタミンK1を含む食品には、海藻やしそ、モロヘイヤ、ブロッコリーなどの緑黄色野菜、ビタミンK2を含む食品には、納豆やチーズがあります。

【まとめ】

今回は、油に溶けやすい脂溶性ビタミンについて解説しました。脂溶性ビタミンは、不足による弊害がないよう摂取する必要がありますが、サプリメントなどによる過剰摂取は悪影響をもたらすことがあるため、注意し、なるべく食事から摂取するようにしましょう。次回は水溶性ビタミンについて取り上げます。

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