愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第9回 老いるオイルと老いないオイル

「油」や「脂質」は、体にとって悪いものだと思っていませんか?摂り過ぎは良くありませんが、脂質もわたしたちの体に必要不可欠なものです。第8回「地中海式ダイエット」でも解説したように、脂質を「どれだけ食べるか」と「どのように食べるか」が健康を左右します。今回は、わたしたちの健康や老化を左右する脂質の質について解説致します。

【脂質とは】

脂質は、糖質やタンパク質と同様、三大栄養素のひとつです。栄養学的に重要な脂質には、脂肪酸、中性脂肪、リン脂質、糖脂質、ステロールがあります。エネルギー源となるほか、ホルモンやビタミンDの材料となりますし、脂溶性ビタミン(A,D,E,K)の吸収を助けるなど、わたしたちの体に欠かせない栄養素です。第7回「高血糖と糖尿病」でも少し触れたように、厚生労働省は、糖質:脂質:タンパク質を60:25:15で摂取することを基準としており、脂質は全体のエネルギーの3割未満が適切であると推奨しています。

【コレステロール】

コレステロールは脂質のひとつです。わたしたちの体は、60兆個もの細胞から成り立っており、コレステロールは、それぞれの細胞の膜を構成しています。また、副腎皮質ホルモンや、男性ホルモンであるアンドロゲン、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンなどのホルモンを作る材料でもあります。さらに、脂質の吸収を良くするための胆汁酸や、骨を強くするためのビタミンDなどもコレステロールから作られます。「コレステロールは体に良くない」と思っている人は少なくないと思いますが、コレステロールが十分でないとホルモンバランスが崩れるなどの体の不調につながってしまうのです。

【適正なコレステロールの摂取量】

体内に存在するコレステロールは、1/3が食事由来、残りの2/3が体内で合成されます。すなわち、食事中のコレステロールが少なく、体内に十分量のコレステロールが存在しないときには、肝臓で作られて補充されます(図1・左)。逆に、食事中のコレステロールが多く、体内に過剰量存在するときには、肝臓はコレステロール合成を停止します(図1・右)。このように、食事内容と、体内のバランスによって、コレステロールが一定に保たれるようにコントロールされています。

このようなことから、2015年、厚生労働省はコレステロールの摂取基準を撤廃しました。食事中のコレステロールは、体内のコレステロール量にさほど影響しないという理由です。ただし、コレステロールが高めの方や、すでに脂質代謝異常症(第3回「あなたの血管は欠陥だらけ!?」参照)だと診断されている人は、コレステロールを摂り過ぎないように気をつける必要があります。健康な人でも鶏卵は1日2個程度までにしておくのが良いでしょう。

【中性脂肪】

代表的な脂質といえば中性脂肪でしょう。中性脂肪は、グリセリンに脂肪酸が3つ結合したものであり、トリグリセリド、トリアシルグリセロールとも呼ばれます(図2)。肉類や魚、オイル(油)などの脂質を含む食品を食べるときには、中性脂肪の形で体内に取り入れ、リパーゼという消化酵素で分解されます。分解されてできた脂肪酸は、エネルギー源となります。エネルギー源である中性脂肪は、適正量は摂っておかないといけないのです。一方で、中性脂肪を摂り過ぎると、皮下脂肪や内臓脂肪として蓄積され、必要なときにはエネルギーとして使われます。

【脂質の質を決める脂肪酸】

中性脂肪を構成する脂肪酸が、脂質の質の決め手であるといえます(図3)。肉類に多く含まれるのは、飽和脂肪酸の中でも長鎖脂肪酸。オリーブオイルやキャノーラ油にはオメガ9という一価不飽和脂肪酸、サラダ油などにはオメガ6という多価不飽和脂肪酸、魚の油にはオメガ3という多価不飽和脂肪酸が含まれます。それぞれの脂肪酸が持つ特性があるため、どの油をどれだけ食べるかによって、健康が左右されます。

【脂肪酸の種類と特性】

体に良い効果のある脂肪酸として知られているのが、中鎖脂肪酸、オメガ9、オメガ3です(図3)。中鎖脂肪酸は、エネルギーとして使われやすい、すなわち中性脂肪として蓄積されにくいオイルであるとして注目を集めています。また、オメガ9はオリーブオイルに代表されるように、悪玉LDLコレステロールを低下させる作用があります。地中海式ダイエットが心血管病の予防に効果的である理由のひとつがオリーブオイルです(第8回「地中海式ダイエット」参照)。

オメガ3は魚の油に多く含まれます。最近では、亜麻仁油やエゴマ油に含まれるオメガ3も注目を集めています。特に魚油に含まれるEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)は、中性脂肪を低下させることにより心血管病を予防したり、脳の発達や認知機能を向上させたりする効果があることが報告されていますので、積極的に食べたいオイルです。

一方、現代人は総じてオメガ6を摂り過ぎています。特に、揚げ物や外食にはオメガ6のオイルが使われる場合が多いので、揚げ物を控え、外食やインスタント食品ではなくご自身で料理を作ることでオイルの質に気をつけることができるでしょう。

オメガ6を控え、オメガ9やオメガ3を積極的に摂ることで、脂肪酸のバランスが良くなり、健康効果が期待できます。次回は、脂肪酸のバランスについてもう少し詳細に解説し、それぞれのオイルの特性を生かした食べ方をご紹介したいと思います。

【脂質バランスの良い献立例】

蒸し寿司

酢飯のうえに、錦糸卵、アナゴ、イクラ、カニ、うずらの卵、木の芽をのせて蒸した温寿司です。

(栄養のポイント)
アナゴにはオメガ3脂肪酸が含まれます。
酢飯にはかんぴょうとしいたけを混ぜることによって白飯を食べ過ぎないようにしましょう。
蒸し寿司にすることで、体を冷やさないような効果もあります。
鮭と根菜の粕汁

かつおだしを利かせた粕汁に、鮭、大根、にんじん、こんにゃく、油揚げを入れる料理です。

(栄養のポイント)
鮭にはオメガ3脂肪酸であるEPA・DHAが含まれます。
発酵食品である酒粕、根菜を食べることで、整腸作用が期待できます。
酒粕にはビタミンB群が豊富に含まれますので、代謝が促進されます。
春菊とナッツのサラダ

ざく切りにした春菊とくるみに、ポン酢とオリーブオイルを混ぜただけのドレッシングをかけるサラダです。

(栄養のポイント)
ドレッシングを手作りにすることで、新鮮で質の良いオイルを手軽に食べることができます。
春菊にはビタミンA、K、カルシウムが豊富に含まれ、肌荒れ、骨粗しょう症を予防する効果があります。
オリーブオイルだけでなく、くるみにもオメガ9脂肪酸が豊富に含まれます。
予防医学としての食を学ぶ
このページの一番上へ