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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第34回 感染症とは

今回も前回に引き続き、免疫の話です。
外敵から自己を守り、疫(えき=病気)を免れる(まぬがれる)ための免疫は、健康維持に欠かせない、自己防衛システムです。前回は、免疫が「自然免疫」と「獲得免疫」というシステムによって複雑に制御されていること、免疫が適切に作用しないと様々な病気になってしまうことを解説しました(第33回「免疫力を高める」参照)。今回は、感染症について。昨今問題になっている新型コロナウイルス(COVID-19)も感染症のひとつですが、「感染症」とはどういう病気なのでしょうか?

【感染症とは】

感染症とは、ウイルスや細菌、真菌、寄生虫などの病原体(病気を起こす微生物、小さい生物)が、わたしたちの体に侵入することで引き起こされる病気です。病原体が体に侵入したあと、体の中で定着、増殖することを「感染」といいます。

感染が起こると、咳や発熱、下痢などの症状が出ることが多く、悪化して肺炎などにかかることもあります。病原体が体に侵入してから症状が出るまでの期間を「潜伏期間」といい、どんな病原体に感染するかによって潜伏期間も、あらわれる症状も異なります。感染しても症状があらわれないこともあります。症状があらわれない場合、気付かないうちに保菌者となって病原体を体外へ放出し、感染を広める可能性があるため、問題となることがあります。

毎年、秋から春先にかけて世界中で流行するインフルエンザは、潜伏期間が1~4日と短いのに比べて、現在大きな問題になっているCOVID-19は潜伏期間が1~14日と長いこともまた、知らないうちに感染を拡大させているのだと考えられます。

【病原体の種類】

感染症の原因となる病原体は、実に様々存在します(図1)。主に、ウイルス、細菌、真菌(カビ)によって感染症が引き起こされますが、このほかにも赤痢アメーバやマラリアなどの原虫やアニサキスのような寄生虫によっても「寄生虫症」という感染症が引き起こされます。

(ウイルスによる感染症)

感染症を引き起こすウイルスには、インフルエンザウイルスのほか、ノロウイルス、ロタウイルス、肝炎ウイルス、HIVなどがあります。ウイルス単独では増殖することができませんが、ヒトの体の細胞に侵入することで増殖が可能になるため、ウイルスは生き延びるためにヒトの体に侵入してくるのです。

インフルエンザ、麻疹、風疹、おたふくかぜ、日本脳炎などのウイルスに関しては、ワクチンが開発されているため、ワクチン接種による予防が可能となっています。一方、一部のウイルスに対しては抗ウイルス薬が開発されていますが、治療法が確立しているものは限られています。

COVID-19はコロナウイルスというグループに属するウイルスです。2002年に発見されたSARSコロナウイルスや2012年に発見されたMERSコロナウイルス、2019年末に発見された新型コロナウイルスCOVID-19を含めて、現在までに7種類のコロナウイルスが見つかっていますが、2020年4月現在、いずれのコロナウイルスに対しても予防、治療のためのワクチンや抗ウイルス薬は開発されていません。ワクチン開発には数ヶ月から数年かかるため、今わたしたちにできることは、自身の免疫力を保つこと、感染拡大を防いで、医療崩壊を起こさないことに尽きるのです。

(細菌による感染症)

大腸菌やブドウ球菌、サルモネラ菌、結核菌などによって、O157のような感染性の食中毒や胃腸炎、中耳炎などの感染症が引き起こされます。抗菌薬や抗生物質による有効な治療が確立しています。

結核菌によって引き起こされる結核は、日本における主要な感染症のひとつです。毎年15,000人以上の患者が発生しており、年間約2,000人が命を落としているのが現状です。患者数を減少させるためにも、BCGワクチンの接種が勧められており、厚生労働省によって、生後1歳までのBCGワクチン接種が小児の結核の52~74%程度のリスクを減らすことができると報告されています。

(真菌による感染症)

白癬菌による水虫や、カンジダによるカンジダ症などがあります。真菌の細胞膜を壊したり、細胞膜の合成を阻害するような抗真菌薬が開発されています。

【感染経路】

人から人にうつる感染症には、大きく接触感染、飛沫感染、空気感染の3つがあります。

(接触感染)

皮膚や粘膜に直接病原体が触れることによって感染します。例えば、病原体が付着した食品を食べること、ドアノブ、手すりや便座など触ること、感染者の汚物や嘔吐物を処理する際に触れてしまうことなどによって起こります。接触感染を介して感染が広がるものの代表として、ノロウイルスやO157、サルモネラ菌などの感染性胃腸炎があります。HIVによるエイズやクラミジア症などの性感染症は、血液や体液、粘膜を介して起こる接触感染もあれば、病原体を持つ動物に噛まれたり、蚊やノミ・ダニに刺されて感染するマラリアや日本脳炎のように、動物や昆虫を介する接触感染もあります。

(飛沫感染)

感染した人が咳やくしゃみ、勢い良く話すことなどによって唾(つば)が飛ぶと、その中に病原体が含まれており、それを吸入することで感染が引き起こされることがあります。飛沫感染が起こる代表的な感染には、インフルエンザ、おたふくかぜ、風疹などがあります。この場合、病原体が飛び散る範囲は1~2m程度であるといわれており、マスクの着用や距離を保つことが有効な対策となります。

(空気感染)

病原体によっては、飛沫する際に極小さい形状を保ち、空気中に浮遊してとどまることがあります。ノロウイルス、麻疹ウイルス、結核菌などは空気感染によって感染します。

【感染症予防のために】

感染症を予防するために、わたしたちが日々気を付けるべきことは、日頃から以下に気を付けて、免疫力を保つことです(詳細は第33回「免疫力を高める」参照)。

  • ①バランスの良い食事
  • ②体を冷やさない
  • ③適度な運動
  • ④睡眠をしっかりとる
  • ⑤ストレスをためない
  • ⑥現在患っている病気を治す

病原体の感染が脅威である裏付けとして、わたしたちの体の中にはたくさんの生体防御機構が存在しています。皮膚、粘膜に存在する粘液や涙液、気道上皮、強酸性の胃液(胃酸)などによって、物理的あるいは科学的に病原体の侵入を防いでいます。これらのシステムが健康に、正常に作用していないと、病原体が侵入する可能性が高くなるので、上記6点に留意して、日々健康に過ごしましょう。

また、感染症の予防には、手洗いうがいが有効です。水で洗うだけでも効果はありますが、石鹸を使うとなお良いでしょう。予防のためのワクチンが開発されている感染症もあります。感染、発症、重症化、感染の拡大をさせないためにも、必要なワクチンを接種しておくことは有効です。

(参考)
厚生労働省ウェブサイト「感染症情報」:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/index.html

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