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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第26回 肝腎要・私たちの健康を支える腎臓

腎臓=尿を作る臓器ですが、それだけではありません。「非常に重要である」という意味で「肝腎要」あるいは「肝心要」と書きますが、これは、肝臓と腎臓、あるいは肝臓と心臓が、私たちの体にとって重要であることが語源となっています。今回は、私たちの体の司令塔ともいえる腎臓について解説します。

【腎臓とは】

腎臓は背中側の腰の上辺りに左右1個ずつあり、左の腎臓の方が右の腎臓に比べて少し高い位置にあります。人の握りこぶしくらいの大きさで、そら豆のような形をしています。腎臓のはたらきは、①体の中の老廃物を排泄する、②血圧を調節する、③血液を作るように指示を出す、④体液量・イオンバランスを整える、⑤骨を強くする、など多岐にわたります(図1)。

①老廃物の排泄
腎臓は血液中の老廃物をろ過する役割を果たしています。心臓から送り出された血液は腎臓に運び込まれると、ろ過されて原尿(尿のもと)が作られます。腎臓でろ過される原尿は1日あたり150Lにもなります。大半は必要な成分とともに体に再吸収され、老廃物は尿として体外へ排泄されます。尿として排泄されるのは1日あたり1~2L程度。この老廃物の排泄がうまくいかないと、気分が悪くなったり、倦怠感を感じたり、食欲不振になったりします。

②血圧の調節
腎臓は血圧を調節する重要な場です。血圧が低いときには、腎臓から血圧を上げるための酵素(レニン・アンジオテンシン、バソプレシン)が分泌されます。逆に、血圧が高いときには、塩分と水分の排出量を少なくすることで血圧を上げます。腎臓のはたらきと血圧は密接に連関しているため、腎臓のはたらきが悪くなることで、高血圧になりますし、逆に、高血圧になると腎臓に負担をかけるという悪循環が起こります。

③血液を作る
腎臓は血液を作るためのホルモン(エリスロポエチン)を作るはたらきがあります。血液中の赤血球が不足して酸素不足に陥ると、腎臓はエリスロポエチンを分泌して、赤血球の産生を促します。アスリートが高地トレーニングをするのは、酸素の少ない環境でエリスロポエチンをたくさん作らせるためであり、実際、高地トレーニングをしたアスリートは血液中の赤血球の量が増加しています。

④体液量・イオンバランスを整える
腎臓は、体内の体液量やイオンバランスを調節したり、体の健康維持に必要なミネラルを吸収したりする役割があります。このため、腎臓のはたらきが低下すると、体がむくみやすくなり、疲れやめまいを起こすこともあります。

⑤骨を強くする
腎臓が骨を強くする?と疑問に思われるかもしれません。実は、カルシウムを効率良く体に取り込むために欠かせないビタミンDは、腎臓で作られており、丈夫な骨を保つためには、腎臓を健康に保つことが大切なのです。

【慢性腎臓病】

このように腎臓は、私たちの体の健康を支えるための重要な臓器ですが、近年、慢性腎臓病が大きな問題になりつつあります。慢性腎臓病とは、慢性的に腎臓のはたらきが低下して障害が起きている状態のことであり、現在日本には1,300万人以上(成人の8人に1人)の患者がいるとされています。慢性腎臓病は、心筋梗塞などの心血管病、脳卒中などの脳血管病の発症リスクを高めます。一方、生活習慣の悪化などによって内臓脂肪型肥満を基盤とするメタボリックシンドロームになると、腎臓のはたらきを悪くして、慢性腎臓病になりやすくなります(図2)。

【日々の生活から気をつけましょう】

腎臓は「沈黙の臓器」と言われており、初期の腎臓病では、ほとんど自覚症状がありません。しかし、放置して腎臓のはたらきが悪くなってしまうと、改善するのが難しくなります。日々の食事や生活習慣を見直して、腎臓を健康に保つ努力をしましょう。

①塩分を控える
最も大切な食事のポイントは、塩分を摂りすぎないこと。塩分を摂りすぎると体に水分がたまりやすくなって血圧が上がったりむくみが出たりします。特に、高血圧になると腎臓に負荷がかかるので、塩分の摂取を制限する必要があります。健康な人であっても、食塩の摂取は男性で1日8g、女性で1日7gまでにすることが推奨されています。

味がもの足りないと感じるときには、にんにくや唐辛子などのスパイスや山椒、ハーブ類などの香草、レモンや酢などの酸味を活用して味に変化を与え、塩分を摂りすぎないように心がけましょう。

②カリウム・リンを食べ過ぎない(腎臓のはたらきが低下している人)
腎臓のはたらきが低下している場合、体の外に排泄されるはずの余剰のカリウムやリンが溜まって、不整脈や骨粗しょう症の原因となります。すでに腎臓のはたらきが低下していると診断されている人は気をつけましょう。

カリウムが多い食品:ほうれん草、干しひじき、さつまいも、バナナなど
リンが多い食品  :牛乳、鶏レバー、辛子明太子など

カリウムは水によくさらしたり、ゆでたりすることによって摂取量を少なくすることができます。調理方法も工夫しましょう。

③タンパク質の摂り方(腎臓のはたらきが低下している人)
腎臓病だと診断された場合には、タンパク質を食べ過ぎないように、制限されることがあります。しかし、健康な人がタンパク質を制限すると筋肉の衰えにつながるため、自己判断でタンパク質制限をしないことが大切です。肉類、魚類、豆・大豆製品、乳製品、卵をまんべんなく食べましょう。

【塩分を摂りすぎないように考慮した献立例】

冷やし麺

茹でたうどん(またはそうめん)に、塩こしょうで炒めた牛肉、薄焼き卵、ねぎ、おろし大根、青じそ、レモン、紅しょうが、のりなどの薬味をのせ、かつおだしをかけます。

(栄養のポイント)
薬味をたっぷり使うことで塩分の摂取を控えられます。
市販の麺つゆを使わずにかつおだしをとりましょう。しょうゆ、塩、みりんで味付けしますが、だしをよくきかせることで、塩分量を少なくできます。
しいたけの肉詰め~バターしょうゆ焼き~

鶏ひき肉に、みじん切りにしたにんじん、パン粉、牛乳、卵を加え、塩こしょうで味付けします。しいたけに小麦粉をまぶしておき、混ぜ合わせた鶏ひき肉をのせて油で焼きます。最後に少量のバターとしょうゆを加えて香り良く仕上げます。

(栄養のポイント)
しいたけは、ミネラルや食物繊維、骨を丈夫にするビタミンDも豊富に含まれています。
しいたけには、うま味成分のグルタミン酸も含まれているため、塩分を控えてもおいしいと感じやすいです。
バターしょうゆの風味としいたけのうま味を生かしましょう。
モロヘイヤとにんじんのごま和え

モロヘイヤは葉だけを取って使います。にんじんは千切りにします。モロヘイヤとにんじんを色良く茹でて、水気を取ったら、すりごま、しょうゆ、少量の砂糖を加えて和えます。

(栄養のポイント)
モロヘイヤは、野菜の王様と呼ばれるほど、栄養豊富な野菜です。βカロテンやカルシウムを豊富に含み、疲労回復に効果的なビタミンB1も含まれます。
モロヘイヤはカリウムも多く含むので、腎臓のはたらきの低下が気になる人は、よく水にさらしてから茹でると良いでしょう。
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