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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

私たちの身体と栄養(17)感覚器 - 舌

2024年9月からは「私たちの身体と栄養」というテーマを取り上げています。私たちの身体には、心臓や肝臓、筋肉などのさまざまな臓器があり、臓器を作るための細胞が存在します。臓器や細胞は、協調してはたらき、私たちの生命や健康を維持するために機能しています。また、私たちが食べたものは、消化吸収された後、全身に運ばれて細胞や臓器がはたらくためのエネルギーとなります。本シリーズでは、身体の仕組みと栄養との関連について、解説していきます。前回は、外界からの情報を正しく受け取るための「感覚器」のうち、特に目と耳、鼻について取り上げました。今回は、味覚を感知している舌について取り上げます。

【味覚を感知する舌】

味覚の情報を感知するのは舌です(図1)。舌は前2/3の舌体(ぜったい)と奥1/3の舌根(ぜっこん)に大別されます。舌の奥の方には、喉頭蓋(こうとうがい)という、蓋(ふた)のような組織があり、食べ物や飲み物が気管に入らないように防ぐ役割を果たしています。喉頭蓋の脇と手前には、口蓋扁桃(こうがいへんとう)と舌扁桃(ぜつへんとう)という、喉を囲むリンパ節(免疫組織)が存在しており、口から入ってくるウイルスや細菌などの微生物を排除するという重要な役割を担っています。

舌の表面には、4つの乳頭が存在します。舌全体に、糸状(しじょう)乳頭という小さな白い突起が広がっており、それに混ざって茸状(じじょう)乳頭と言う少し大きく赤みが強いポツポツとした突起があります。また舌の奥には、二重丸を書いたような形の大きい有郭乳頭が逆V字型に並んでおり、その両脇には葉状乳頭があります。

茸状乳頭、有郭乳頭、葉状乳頭には、味蕾(みらい)が存在します。味蕾には甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5つの基本味を感知するための味覚受容体細胞があり、それが刺激されると情報が大脳に伝わります。有郭乳頭では1個あたりに数百~数千個、葉状乳頭では1個あたり数十個~1300個程度、茸状乳頭では1個あたり数個の味蕾があるとされています。糸状乳頭には味蕾はありません。味細胞は約10日のサイクルで入れ替わっており、その入れ替わりには亜鉛が必要であるため、亜鉛不足によって味覚障害が起こってしまいます。

図1. 舌の構造

舌は前2/3の舌体(ぜったい)と奥1/3の舌根(ぜっこん)に大別される。舌の奥には、気管に蓋をするための喉頭蓋(こうとうがい)、リンパ節である口蓋扁桃(こうがいへんとう)と舌扁桃(ぜつへんとう)が存在する。舌の表面には、糸状(しじょう)乳頭、茸状(じじょう)乳頭、有郭乳頭、葉状乳頭と言う4つの乳頭が存在する。茸状乳頭、有郭乳頭、葉状乳頭に存在する味蕾(みらい)の味覚受容体細胞によって5つの基本味を感知している。

【5つの基本味】

味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5種類があります。味覚はおいしさを感じるためだけでなく、酸味を感じることで、腐敗したものを感じて危険を認識したり、苦味を感じて毒でないかを認識したりするためにも重要なシステムです(図2)。ちなみに、辛味や渋みは刺激やしびれとして感じるため、味覚ではなく触覚に分類されます。

図2. 5つの基本味と役割

味覚には、甘味、塩味、酸味、苦味、旨味の5種類があり、それぞれ役割と感知するものが異なる。

【旨味】

だし昆布や鰹節からとっただし汁の味は旨味といいますが、この「旨味」は日本人研究者らによって提唱されました。池田菊苗博士は、ドイツ・ライプツィヒ大学に留学中、初めて食べたトマトやアスパラガス、チーズには、甘味、酸味、塩味、苦味とは異なる味があり、昆布に共通するものがあることに気付き、1907年に昆布から煮汁を取り、L-グルタミン酸ナトリウムを得ることに成功し、これを「うま味」と名付けたのです。その後、池田菊苗博士の高弟・小玉新太郎氏は、かつお節から「イノシン酸」を、国中明博士は, 核酸の分解物である「グアニル酸」を発見しました。

2000年に、旨味成分であり、アミノ酸の一種であるグルタミン酸を感知する受容体が味蕾に存在することが明らかとなったのをきっかけに、旨味は5つ目の基本味として広く認知されるようになりました。今や旨味は「UMAMI」として世界的に使われる用語となり、国際的な学術用語としても使われています。

旨味成分には、アミノ酸系のグルタミン酸、核酸系のイノシン酸、グアニル酸があります。アミノ酸系と核酸系の旨味を含む食材を組み合わせることで、旨味が格段に増します。

(グルタミン酸を含む食品)
昆布、チーズ、アスパラガス、白菜、玉ねぎ、トマト、醤油、味噌など

(イノシン酸を含む食品)
鶏肉、牛肉、豚肉、鰹節など

(グアニル酸を含む食品)
干し椎茸、乾燥ポルチーニなど

【味覚障害】

食事の味がわからない、おいしくない、食べていないときも口の中に苦味などを感じる、舌の感覚がいつもと違うなど、味覚の低下や異常を感じる状態を味覚障害といいます。食事を楽しめなくなるだけでなく、塩味を感じにくくなることにより、塩の使用や摂取量が多くなると, 高血圧のリスクが高まったり、基本味を感じにくくなることにより、食べ過ぎて肥満やメタボリックシンドロームのリスクが高まったりする可能性もあります。また高齢者の場合、おいしいと感じなくなることにより、食欲が減退し、フレイルの原因になることもあります。

味覚障害の原因として、唾液の不足、加齢、亜鉛不足による味蕾の機能不全、心理ストレス、薬剤の副作用、病気の罹患などが考えられます。亜鉛を含む食材には、牡蠣などの貝類、レバー、肉類、うなぎ、乳製品、ナッツ類があります。

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