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掌(てのひら)の骨董

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

掌の骨董140.化石を楽しむ・「三葉虫」における「眼」の進化


デボン紀、モロッコ出土のオドントキーレ・ハウスマニの三葉虫 丸い複眼に着目

丸い複眼の拡大写真

 今回は少し趣向を変えまして、骨董マニアにも愛好家が多く、私も子供の頃から好きで、絵に描いたりして楽しんできた、太古の化石「三葉虫」の世界を楽しんでみたいと思います。

 特にその独特な「複眼」の構造と形態について、蜂やトンボと違う「形」を化石から見ていただきたいと思います。写真を引き延ばし、拡大して観てください。この丸く規則正しく、等間隔に並んだたくさんの丸い「眼」は三葉虫で進化し、滅びました。トンボ、蜂、蝿と形態が違います。

 図鑑などで小学4年のころから興味のあった古生物・三葉虫(本品はデボン紀・約4億1900万年前から約3億5900万年前まで生きた)「オドントキーレ・ハウスマニ」の化石ですが、今回は私が子供のころから不思議に思っていた生命の進化、中でも動物の「眼」がどのように出来たのか、不思議に思ってましたが、子供がいくら考えても、その答を得ることは到底無理でした。ただ熱帯魚の中に、眼の無い、白い魚がいるのは知ってましたから、光の無い場所で長期間育つと「眼」は退化して、形成されないことは理解してました。

 ところが2006年3月に「『眼の誕生』カンブリア紀大進化の謎を解く」 著者・アンドリュー・パーカー・草思社刊・が出版され、私も購入して読んでみました。これはなかなか勉強になりました。もちろん眼の進化については、下記に図にまとめて表しました。この本から思わぬ勉強になったのは、カンブリア紀以降の5億年の生命の進化の過程で不思議な生物の大量絶滅がしばしば起きていますが、銀河系宇宙の中での「5億年」というとてつもなく長い時間の間に、銀河系宇宙の渦巻きの変化から、引力変化が起きたらしく、十数キロ規模の隕石が地球上に降り注いだ時期があったことがわかり、それによる急激な「地球寒冷化」が三葉虫や恐竜の絶滅などにも影響し、さらに恐竜の支配に隠れ棲んでいた小さな哺乳類のネズミ類の生存が自由になり、大きな進化を促し、そこから人類の誕生への発展につながったとも考えられる訳です。ホモサピエンス(現生人類)誕生にはまだ謎は残されますが、壮大な宇宙のドラマ、生命のドラマを観ているようです。

 「眼の進化」がどのように進行したかについては、図を使いながら、ご一緒に勉強したいと思います。この「眼の進化」は他の臓器と共に、ほぼ地球の歴史の大半、35億年以上という、途方もない長い時間をかけて、突然変異と進化が繰り返し続いたと考えられます。

 ここで、最も古いとされますカンブリア紀の「三葉虫(化石)」の写真を観ていただきましょう。


三葉虫「レドリキア」最も古いカンブリア前期、眼は小さいが、丸い複眼になってます。

 この最も古い三葉虫はカンブリア紀のもので、約5億4000万年前といわれます。最初期の三葉虫の出現です。そして約2億5000万年前のペルム紀に絶滅するまでの3億年の長きにわたり栄えた代表的な三葉虫です。40倍のルーペで観察してみますと、すでにたくさんの小さな丸い複眼が形成されています。


デボン紀のクリーノプス。丸い眼が大きく、しっかり形成されている。

 灼熱の地球が誕生して約46億年といわれますが、6億年経過した40億年くらい前に、海から最初の生命、原始細胞が生まれ、そこから臓器と甲羅、眼を持った三葉虫そのものに進化するのに約35億2000万年かかっています。想像できないくらいの時間が経過して、そしてカンブリア紀に急速に生命は「爆発的」に進化発展します。一般には「カンブリア爆発」といわれる、多種生命の大進化、発展期です。これまでに眼のない細胞が光を感じ、それが外界の姿を認識するようになるためには大変な長期間の進化が必要だったと思われます。眼の進化は生命の種類により違いがあるようですから、それぞれの生命がバラバラに進化し、その速度はそれぞれ種類により違うようです。まったくの暗黒世界、光の届かない深海や外界と接触のない洞窟の中では、魚の眼は発達しなかったり、退化したりして、眼の無い魚が生まれるようになります。

 三葉虫の場合、硬い甲羅を持っている体質ゆえに、眼のレンズ部分は「方解石」(炭酸カルシウム)質で出来ているようです。生物の眼のレンズが鉱物でできるなんて、信じられませんが、不思議と、方解石特有の、光の透過に屈折が生じたことも進化の過程で克服してるようで、生命の奥深さを感じ、大変興味深いです。

 ここは三葉虫研究の中でも、とても面白いところのように思えます。結論から言いますと、生き物の眼に鉱物が組み込まれることはその体質から、あり得るとされます。


トンボの複眼

 トンボの眼で六角形に見えるものは、一個一個の眼そのものというより、非常に多数の個眼(ommatidium)の表面のファセット(宝石などの多面カットのこと)が密集してできる六角形状の配列です。三葉虫にも多数の個眼からなる複眼があり、基本原理としては共通性があります。実際、約4億2900万年前の三葉虫では、受容細胞、レンズ、遮光色素など、現生節足動物の個眼とよく似た内部構造まで報告されています。


三葉虫の化石の「眼」

 これは一個一個のレンズが大きく、トンボとは違い、互いに離れていて外から見ると丸い小さなレンズがたくさん並んでいるように見えます。化石とは不思議なもので、こんなに小さな眼まで化石化するのですね。三葉虫の細かい「複眼」が化石にかくも鮮明に残ったのは、成分が「鉱物」、すなはち炭酸カルシウムであったからこそ、化石としてハッキリ残り、我々が観ることができたのです。

 さらに驚くのは、その方解石の性質です。
方解石は透明です。私も方解石のカメラレンズを持っていますが、明るく、解像度は良いです。しかし単なる透明な石ではなく、強い複屈折を持っています。普通ならレンズ材料として扱いにくい性質を持ちますが、それ以上のメリットがあるのです。ところが先にも述べましたように、三葉虫では方解石結晶の光学軸の配向などによって、その問題を克服していたと考えられています。

 そして一部の大型レンズでは、レンズ内部が単純な球面ではなく、球面収差を補正するような複雑な光学構造になっていることが古典的研究で明らかになりました。1975年のクラークソン(Clarkson)とかレビ・セッティ(Levi-Setti)の研究は、この構造をデカルトやホイヘンスが後世に数学的に扱った非球面レンズの光学と比較しています。

 つまり約4億年前の生物が、自分の身体の中で「鉱物レンズ」を作っていた。更に屈折収差まで修整してた、ここが三葉虫の眼の凄さといえます。

 「大きな丸いレンズが一個ずつ独立した眼」の違いが写真でもかなり分かります。そこから、なぜ六角形ではなく円なのか、なぜ方解石なのか、そして4億年前の海中で実際に何が、どのように見えていたのかまで、一緒に追ってみたいテーマに思えます。

 進化を見ていると、「最初から眼を作ろうとして作ったのではない」というところが、いちばん不思議です。最初に必要なのは、いまの眼球のようなものではなく、平らな皮膚上に光を感じる分子と、それを持った細胞です。「明るい/暗い」が分かるだけでも、海中なら大きな生存上の利益があります。
そこから、光を感じる細胞が集まり、少し窪めば光がどちらから来るかが分かります。くぼみが深くなれば方向がもっと正確になる。入口が狭くなればピンホールカメラに近づく。さらに透明な組織が入口を覆い、その形が少しずつ光を集めるようになれば「レンズ」になっていく・・・という、小さな変化の積み重ね(進化)として考えられます。

 この図の①から⑥までの進化過程に、生命は約35億2000万年を費やしてます。特にピンホールの形成からレンズ、絞りの形成がすごい進化で、やがて三葉虫の丸い複眼は気候変動などで絶滅し、六角形複眼は蜂やトンボが継承し、やがて他の動物の眼は2個にまとまり、「距離感」とともに、味覚、臭覚、聴覚などがより進化してゆきます。

  1. ①皮膚に色素細胞と視神経が形成される。
  2. ②色素細胞がくぼみに被われる。明暗の認識。
  3. ③くぼみの両サイドが発達して、空洞ができる。
  4. ④次第に空洞が閉じて、ピンホールになり、像を結ぶようになる。
  5. ⑤角膜とレンズが形成され、よりハッキリした像と二つ以上の眼により、遠近の認識ができるようになる。
  6. ⑥絞りが形成され、光量の調整、レンズによりピントの調整が可能となり、「眼」が完成する。

レオナスピス/ デボン紀

 「透明な生体組織をレンズにしよう」と進化してもよさそうなのに、三葉虫の一部は、方解石という鉱物を、固い甲羅の体内成分から利用する方向へ進みました。 進化には一つの正解があるのではなく、その生物がすでに持っている甲羅のような身体の材料や構造を利用して、その時々に役立つ方向へ変化していくようです。しかも「眼」は進化史上、一度だけ完成して全生物へ配られたものではありません。動物の個体、系統ごとに異なる眼が、それぞれ進化、発達しています。昆虫の複眼、脊椎動物のカメラ眼などを見ると、同じ「光を見る」という問題に、生物が異なる解答を出しているように見えます。

 完成した三葉虫の眼を見るのではなく、「光を感じるだけの細胞から、どういう行程を経れば、こんな方解石レンズの複眼まで来られるのだろう」と逆向きにたどる発想もおもしろいかなと思います。

 そうすると化石が、単なる古い生物の残骸ではなく、何億年にもわたる試行錯誤の進化の途中経過に見えてきます。


海さそり(オルドビス紀~ペルム紀、4億6730万~2億5200万年前)

 進化とは個別の性質から、それぞれたどる道が違うということが分かりました。

 最後に、お伝えいたします。

 トンボの視覚の研究で大きな発見がありました。トンボには、色覚に関わるオプシン遺伝子(注・ヒトや動物の目にある視細胞で、色や明るさを感じる働きを持ち、主にLオプシン(赤)、Mオプシン(緑)、Sオプシン(青)などがあります)、それがケタ違いに多いことを、産業技術総合研究所の二橋亮(ふたはし りょう)主任研究員と深津武馬(ふかつ たけま)首席研究員らが発見しました。大半の動物は2~5種類のオプシン遺伝子が色覚に関わるのに対し、トンボは、ギンヤンマの33種類を最高に15種類以上のオプシン遺伝子を持っていました。

 トンボの複眼は色覚能力が極めて高く、周りに色があふれるように超多彩に見えているようです。色覚の多様性と進化をたどる新しい手がかりとして注目されます。東京農業大学の矢嶋俊介(やじま しゅんすけ)教授、川原玲香(かわはら りょうか)博士研究員、総合研究大学院大学の蟻川謙太郎(ありかわ けんたろう)教授、木下充代(きのした みちよ)講師らとの共同研究で、2月24日付の米科学アカデミー紀要オンライン版に発表されました。

 光は眼の光受容細胞で電気信号に変換され、脳で情報が処理されるといいます。光受容細胞には、光センサーのオプシンタンパク質が存在します。異なる種類のオプシン遺伝子が感受性の異なる光センサーを作り出します。ヒトは、青、緑、赤の3原色に対応した光センサーを作り出す3種類のオプシン遺伝子を持っています。このため、ヒトは可視光は見えるが、紫外線は見えません。

 研究グループは、最新の次世代シーケンサーで網羅的にトンボの遺伝子を解析して、オプシン遺伝子を調べました。トンボは複眼を持つ昼行性の昆虫で、聴覚や嗅覚が退化しており、ほかの昆虫と比べて視覚への依存度が極めて高いとされます。12種類のトンボで、オプシン遺伝子が15~33種類もあり、ほかの動物より格段に多かったのです。


デボン紀、モロッコ出土のオドントキーレ・ハウスマニの三葉虫

 今回は三葉虫の「眼」の進化を中心に見てみました。

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