愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

掌(てのひら)の骨董

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

掌の骨董33.唐・金銅小三尊像


掌の小金銅仏
3の謎を考える 試論(続き)

最初に唐時代の金銅小三尊仏を観ていただきました。目鼻の鏨がキリリと打たれたかわいい高さ55ミリ、幅50ミリの作品です。今回のテーマである3に関係した三尊仏です。


鏨で打たれたキリリとした目鼻

 前回は三の持つ様々な事例を「猿投三筋文小壺」に始まり多くの事例を見ていただきました。本当に「三」は不思議な、「聖数」ともいえる数字です。
 中国では人間にとっての幸福の要因は3つあると考えました。
 1.福=豊な財力 2.壽=長寿 命長し 3.子孫繁栄 の3つです。
 中世キリスト教では三位一体、すなわち父と子と聖霊、仏教では佛・法・僧となります。
 これらは人間の根源的存在思想とも考えられる古代エジプトの重要な思想である、1.生命(再生・復活) 2.安定 3.支配、という考え方が基本にあると考えられます。キリスト教はエジプトの宗教思想の背景の上に形成されている傾向も強く、また中国文明も文化的には古代エジプト、ギリシャの影響の上に形成されている部分が多いのです。さらに日本の文化・宗教・美術の根幹をなす仏教はまさにエジプト宗教思想と思想的根源は一体であるといってもよい部分を持っています。そう考えますと次のような図式が考えられます。

  古代エジプト 中国
1 生命 再生・復活 壽・命長し
2 安定 福・豊かな財力
3 支配 子孫繁栄

 古代エジプトの三原則は重要です。ファラオたち支配者の基本といえるスタンスです。
生命は死と共に精神と肉体に分離されると彼らは考えました。肉体から浮遊した精神はい
つか肉体に戻り再生、復活します。そのためには肉体の保存が絶対条件となり、ミイラが
作られました。このように再生して永遠の権力を享受するためには肉体の不滅は絶対条件
でした。
 また「安定」はある意味一番大切な考え方です。権力者が一番欲するもの、それが「安定・安泰」です。すべての権力と豊かさが永遠に続くことを地上の権力者たちは求め続けました。
 そして3つ目の「支配」。自分と親族の支配が続くこと。力が強ければ強いほど安定と平
安、豊かさと永遠に近づきます。これまでの人類の歴史と発展は飽くなき強者の欲望の歴史であり、決して弱者というか、民主的なものではありませんでした。民主政治といえばギリシャ世界を思い浮かべますが、その後民主政治は崩壊して、またローマの権力闘争に発展してゆきます。人類の歴史の多くは、限りない権力闘争の歴史であり、それは今後も大きくは変わらないでしょう。そうした人類の文化の思想的バックボーンが三の思想の原点かもしれません。
 前回考えました三の事例は以下のようになります。

  1. エジプトのファラオの石像で、女神に両サイドを守られて、後の仏教の「三尊形式」の始まりを表現した三。三尊形式のファラオ像と釈迦三尊仏の三
  2. キリスト誕生の時に祝福に駆け付けた東方の三賢人の三。
  3. ピラミッドの三角形の三。
  4. カルナック神殿などのオベリスクの頂部分の三角形の三。
  5. アブシンベル神殿などの祠堂の頂部の三角。
  6. 日本の板碑の頂部の三角。
  7. 三重の塔の三。
  8. 七五三の三。
  9. アリストテレスの「天体論」において主張される立体としてのたて・横・高さすなわち3次元世界の三。
  10. 常滑の三筋壺の三。

  11. 三筋壺
  12. 大和奈良の神々の古山、大和三山の三、古事記などの蛇信仰で有名な「三輪山」の三。古代の直刀,玉纏の太刀(外装)の柄に使われた「三輪玉」の形。

  13. 三輪玉
  14. 亡くなった方の額につける三角マーク。幽霊の額の三角巾。
  15. 装飾古墳の三角文様。
  16. 鼎の足の数、三本。桃山陶器の重ね痕 三角円錐ピン

  17. 織部の円錐ピン
  18. ヤタガラスの三本足の三。日本の支配に関わった賀茂氏との関係
  19. 数字3という形の謎。
  20. 天皇を支える左大臣、右大臣 3人
  21. 東寺国宝両界曼荼羅の三角 悪・魔を祓う三角
まだまだあります。

こうした3の事例を上記のエジプトの3原則に分けて私なりに整理してみますと

1. 生命・再生の3  常滑三筋壺 三輪山 古墳装飾の三角文 漢の緑釉壺の三筋文

2. 安定の3  三神像 東方の三賢人 ピラミッドの三角形 オベリスクの三角形
祠堂の三角屋根 板碑の三角屋根 三重の塔 七五三 アリストテレスの3次元 鼎の三足 ヤタカラスの足 三輪玉の形 鼎 名所マーク 東寺国宝両界曼荼羅の三角


祠堂の三角屋根と日本の鎌倉時代の板碑

3.支配・蛇信仰の3  蛇の鱗は三角形 アルクルンとピラミッドの三角形 オベリスクの三角形 祠堂の三角屋根 板碑 三重の塔 三輪山 死者の額の三角 古墳の装飾文 アルクルンの山頂の形 過去・現在・未来の3 東寺不動明王の額の3本の皺の数 天狗の面の額の3本筋


王家の谷上のアルクルンの山

 最後に数学の定義で有名な「ピュタゴラス」の考えた、宇宙の3の世界をご紹介して終りにしましょう。ピュタゴラスも全宇宙はすべて3によって限られていると考えました。終わりと、中と、はじめという3と考えられますが、これらは神々を祀る際にも用いられたとされています。またこれは宇宙の原理と考えられ、中心を回る力、外への力、内への力。わかりやすくいうと宇宙のビッグバンに例えるとわかりやすいです。ビッグバンに代表される爆発する外への力、反動としての内への力(光をも引き寄せる引力のあるブラックホール)、爆発した破片が引力によって引き寄せられて天体が形成され、大きな星の周りを巡る力、その3つに分かれるといいます。爆発、収縮、回転。無限の宇宙世界を古代ギリシャの数学者が考えたことに、大きな驚きを感じます。

掌(てのひら)の骨董
このページの一番上へ