文化講座
掌の骨董87.贋作・伊万里染付花唐草文輪花小皿
贋作・伊万里染付花唐草文輪花小皿
伊万里の贋作は大変多く、現在の流通、ネットオークションや販売においても大量の贋作伊万里が存在しています。プロの業者市にもたくさん出ますから、プロ、アマの別なく購入する方々からすれば、贋作はやはり切実な問題といえます。
前回の掲載を読んでいただきました何人かの方々から、掲載しました贋作の伊万里小皿について、詳細に書いてほしいとの要望をいただきました。熱心な方々で、私も大変嬉しく思いました。
どういう内容かと申しますと、前回の掲載は以下のものでしたので、今一度お読みいただければと思います。
贋作の伊万里皿(元禄時代の皿を真似した現代作品)
この作品の悪い点
①呉須が薄い。
②口紅が薄い。良ければ濃いチョコレート色している。
③裏の渦福銘が下手。
④ピンの位置がおかしい。真ん中に打つが、かなり外れている。焼いていて、底が落ちてくるのを防ぐピンだから、真ん中に打たねばいけない。以上の点から贋作です。
このように書きました。もちろんこれでよろしいのですが、もう少し初心者の方に分かりやすく、写真も増やして、詳しく説明していきたいと思います。
まず最初は①の呉須が薄いという内容ですが、写真で比較すると以下のようになります。江戸時代には呉須(酸化コバルト)は中国から輸入していました。当時の呉須の原産地はペルシャ(現在のイラン周辺)に限定されていましたから、シルクロードを駱駝で運ばせて中国に運び、一番品質の良い呉須は高価で中国皇帝や貴族たちのための作品に使われました。発色も素晴らしく美しいブルーで、日本では一般的に「祥瑞(しょんずい)」と呼ばれる事が多いようです。ちなみに中国の明朝時代ではペルシャ産の呉須のことを「回青」といいました。ですからレベル、品質により若干の濃淡の差はありますが、本作の場合は薄過ぎます。
本作(贋作)
真作(本物)
次に ②口紅の色がかなり薄い。良ければチョコレート色している。この口紅とは皿の縁に施されている濃い茶色、チョコレート色の鉄釉を指しての名称ですが、作品全体を引き締め、高級感を持たせる装飾技法の一つです。これが入ると作品評価はワンランク上がります。
贋作の口紅は薄い
本物の濃い口紅
③裏の渦福銘が下手。
この贋作の渦福銘はかなり下手です。ぎこちなく感じますし、筆使いも流暢さがありません。それに比べて本物の銘は勢いもあり、流れるようなスピード感があります。贋作は筆が遅いから、インク溜まりが所々にあります。どうでしょうか、比較するとその差は歴然としています。この差をしっかり頭に入れてください。大切な鑑定ポイントです。
贋作の「渦福」
本物の「渦福」
④ピンの位置がおかしい。真ん中に打つが、かなり外れている。焼いていて、底が落ちてくるのを防ぐピンだから、真ん中に打たねばいけません。贋作は渦福銘を強調、主張したいため、本来の底のヘタリを防ぐために中央に打つべき役割を無視して福の字の外にピンを打っています。あり得ません。
贋作のピンの位置
本物のピンの位置。真ん中
それから以前にも書いた注意点ですが、皿を水平にして、真横から見て、現代のコンピューター管理では焼成温度は一定で、ために温度差による歪みが出ずに、作品は完全な水平になります。贋作は完全な水平、本物は歪みが出ています。それは窯を使い、温度計の無い時代に、赤松の薪で焼いた証拠であり、不安定な温度で常に収縮膨張を繰り返した結果の「歪み」が出ることが多いです。そこを観ます。
歪みのない本作(贋作)
本物の歪み
さらに本物は数百年の期間、使用されてきた訳で、使用痕が付いてます。これは30倍以上のライト付きルーペを使い、注意深く観察しますと、皿の表の見込み(皿を上から見た表面)に小さな使用した時に付いた擦り傷が、一つ一つが違う方向を向いていることが大切です。そうした小傷がたくさん観察されます。水平な傷が付いていたら、それは紙ヤスリで故意に付けた傷ですから、買うのは止めましょう。
この作品は、かなり前ですが、あるプロになった会員さんが業者市で5枚セットで仕入れた作品で、観ていると怪しい感じがするから、鑑定してほしいと持っていらした作品です。私はまず5枚の場合は表面の図柄が全く同じ、全ての皿の絵が位置も濃淡も筆使いも同じかどうか注意深く観ます。全てが全く同じなら現代作品のプリントの贋作となります。手描きなら一枚一枚の細かなタッチは変わり、それが本物です。数が多い場合はこれだけを観るだけで簡単に判定できます。最近はプリントの技術も上がり、一見しただけでは判別は難しいほど精巧です。しかし5枚の絵が表も裏も全て同じ調子でしたから「贋作」と判断しました。本作はその鑑定のお礼に、彼から講座で贋作の説明の折りに使用してくださいと1枚いただいた作品です。ありがたいことでした。その作品にはすべての「贋作」の鑑定ポイントが詰まっていた訳です。