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掌(てのひら)の骨董

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

掌の骨董133.唐加彩美人俑と簡易修復入門


唐初期加彩美人俑

 今回は魅力的な唐時代(618~907年)の副葬品に限定された作品、素朴な「唐加彩美人俑」についてお話ししましょう。

 それと、この作品は首がすでに破損していて、あわせて土製品の修復入門として皆様にも機会があれば修復にチャレンジしていただきたく、手軽な方法を解説してみたいと思います。

 この作品を詳細に観察しますと、実は最盛期の唐の俑(俑とは人の殉死の代わりに考案された人形)というジャンルの作品をいい、それを観察しますと、美人俑では顔がふくよかで、まん丸です。いわゆる「唐美人」それを真似た「飛鳥美人」のように、丸くなりますが、今回の俑は細身でスマートな体つきをしてます。実はこれは唐の前時代の「隋(581~618年)様式」を踏襲した唐初期の作品なのです。


少しあどけない表情も浮かびあがる。

 隋は文化が高度に発展した国家で、初代皇帝・楊堅は都を長安に定め、科挙の創始や大運河を建設し、均田制を整備し繁栄し、卓越した力量を発揮しますが、二代煬帝の時に高句麗遠征と、更なる大運河網を築く大工事を実施する中で国民を酷使したため、反乱が起きて短命な政権に終わりましたが、次の唐政権がその遺産を引き継ぎ、大繁栄しました。

 隋は仏教を率先的に取り入れた先進文化国で、美的な水準は極めて高く、特に人物像などの美術品にその力は反映されています。その影響を唐は受けました。それが釉薬の掛かった「唐三彩俑」と、今回の「加彩俑」に表れてます。


赤い土(下)と白土化粧の白(上)。

 さて、赤い粘土への「加彩」とは、基本は白土を用いて白化粧させて、さらにその白の上に色彩を加えるという意味の言葉です。ボディは、ギリシャ伝統の鉄分の多い赤い土で、素焼きしてますから、出来た当時は固く焼き上がってましたが、1000年以上墓の劣悪な条件の中に埋納されていたため、強度も劣化してもろく弱くなり、すべて壊れやすくなってますから、扱いには特に注意が必要です。

 唐の第2代皇帝の側室から夫人となった武則天こと則天武后は、当時の最先端技術で制作された、美しい釉薬の掛かった「唐三彩」を愛しましたが、鉛釉薬ゆえの「有毒性」を考慮して「副葬品」として大量の作品を作ったことで有名です。


美しい唐の髪型をした美人俑(継ぎ目の修復前)

 今回は歴史ある、この首の欠けた「加彩」作品を修復し、欠ける前の状態にできるだけ戻したいと思います。みなさんも縄文土器やこうした欠けた粘土作品を見つけたら、勉強のために安価に購入して、修復してみてください。きっと前の持ち主さんは、この作品を地震、事故か不注意で倒したために首が欠けたものと思われます。細い人形ですから、倒れ易いので、倒れたら大半は首が破損しますが、価値を保つため修復が入ることになります。


継ぎ修復セット

 まず用意するものは、土器の修復ですから①水性木工ボンド ②サンドペーパー(#400番) ③瞬間接着剤(写真)の三点です。私はこの直し方を発見して以来、多くの縄文土器、ギリシャ彫刻、唐加彩作品を修理してきました。最初は少し練習、経験が必要かもしれませんが、私は高価な縄文土器をかなり細かく壊してしまった方から、3日間で元通りに修復して欲しいと懇願され、ぶっつけ本番で修復し、無事に傷が分からなく直した経験がありました。その時に経験を総動員して、様々な方法を考案しました。ですからいろいろ考えながらチャレンジしてみてください。

①小皿に木工用の水性ボンドを1センチくらい絞り出す。そこに少量、1/3くらいお湯をいれて、手先で柔らかく練ります。

②次に胴体の接地部分を少し紙ヤスリでけずり、赤土、白土の粉状の粉末を若干用意します。


首の断面写真

③①で練った薄めたボンドを両断面に指先で塗ります。すると水分が中に浸透して行きます。浸透しきったらまた塗ることを繰り返し、3回ほどしてから、胴体の首断面に、薄めてない水性ボンドをチューブから一滴分を直接塗り、頭の部分を割れ目にピッタリと接着させます。

④断面からボンドが少しはみ出してきたら、素早く拭き取り、頭を上から押さえながら②の粉末を指先に付けて、手早く断面に塗りつけて、隙間を埋めます。この作業だけ手際の良さを求められます。もしボンドがはみ出なかった場合は、完全に乾いたと思われる段階で、その継ぎ目に瞬間接着剤を慎重に、針の先などに少量付けて、吸い込ませることを気長に続けますとより強固に補強できます。それが終わりましたら、粘着力があるうちに、白土をすり付けます。

⑤そして1昼夜以上時間を置きます。

⑥1昼夜から2日間置いて、完全に乾いたことを確認して、仕上げに掛かります。

⑦首の継ぎ部分を自然にヤスリや指先でならし、もともとの雰囲気に再現します。このときに心掛けるのは、継ぎ目をわかりにくくするということです。白土や赤土の微妙な変化を自分なりにどのように「自然」な様子に整えてゆくかが「勘」とか「経験」といえます。


継ぎの補修をする前

ヤスリがけ

修復後

出来あがり

⑧仕上がりです。

 このような順番でチャレンジしてみてください。注意すべきは、慌てないで、ゆっくり時間をかけて、気長に直すことです。十分乾燥させることです。上手く行かない時はお湯に浸ければすぐに戻りますから、最初からもう一度やり直してください。実際にチャレンジすると、さまざまな問題にぶつかったり、自分なりの方法を発見したりと楽しいものです。

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