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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

白樫の清なる理美

<卯杖>

 新春を寿ぐ常磐の木として、松や譲葉や榊や白樫などがあり、いずれもその葉に言祝ぎの意が隠されております。
 その中で「白樫」は、とりわけ神聖な葉を有した木として『万葉集』には詠まれており、柿本人麻呂の歌集に相聞歌そうもんかとして、
あしひきの山路(やまぢ)も知らず白橿(しらかし)の 枝もとををに雪の降れれば
(山道も分からないことだ、白樫の枝もたわむほどに雪が降っているので)と歌われております。
 ここでの雪がたわわに降り、行く道が解らなくなっている状況からは、恋しい人との逢瀬が叶えられるか否かの不安感を漂わせていますが、歌の中に「雪」と葉裏の白(灰白色)い「白樫」を出合せ、「白色」即ち「清白」から、偽りなき恋であることの深さを示し、厳しい恋が成就することの意が隠されているのです。
 そうした偽ることのない白樫を「卯杖うずえ」として用いる伝統的な神事があります。
 1月11日に熱田神宮で行われる「踏歌とうか神事」がありますが、ここで用いられる卯杖は、白樫の枝葉と樹皮を取り去って白い杖とし、その白い木肌を見せた杖の上部には、五穀(稲麦粟黍豆)の名を白き和紙に記して巻き、その木の頭に、邪気を払う枳殻からたちトゲを飾り付けます。
 この卯杖の「」は、十二支の卯(うさぎ)で、東の方位で春を示し生命の誕生を意味します。その卯杖で大地を敲きながら拝殿前を歩み、無事に春の訪れを迎え、五穀豊穣を祈るのです。また『古事記』には、五穀や酒をかもし出す為の臼を白樫で作ったことが記され、白樫の臼は生産の呪物性が高められると重されていました。
 どうぞ、この新春には熱田神宮を拝し、「踏歌神事」を観して、境内の白樫の葉に触れて願い事を成就させてみて下さい。本年の御題は「葉」です。
万葉植物から伝統文化を学ぶ
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