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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

白膠木

 雨天の季に入り、樹木などの豊かな林や森を訪れてみると、草木の葉が緑々と繁り、とても美しく観することができます。
 この白膠木は、万葉集にて「可頭乃木かづのき」と称されており、和歌として、
足柄【あしがり】の和【わ】を可鶏山【かけやま】の可頭乃木の吾をかづさねもかづきかずとも(作者未詳)  この歌には「譬喩歌ひゆか」と称され、
足柄あしがら和乎可鶏山わをかけやま白膠木ぬるでの木ではないが、私をかどわかしてください。どんなに誘ってもかまいませんから)と詠われております。そして、この歌の「足柄」は、現在の神奈川の足柄山あしがらやまあたりとされ、そして「和乎わを」は我を指し、「可鶏山」を含める意とすると、私のことを心に掛ける(深く想う)意を表するものとされ、そして、さらに「かづさねも」「かづさかずとも」とは、可頭乃木のかづの同音を重ねられております。そして古来この「かづ」は「勝つ」に通じさせ、ものを得るとか、勝ち取るなど戦勝を意味したものとされ、たたかいに赴くときにこの木を餞別せんべつとした。それらのことを考え併せると、ここでは「私を早く勝ち得てくださいな」という意味が解けてくる。
 この白膠木は、ウルシ科の落葉高木であり、樹腋にはうるし質があって、物を接合させる性質があるので、男女の強い接合を願った、この歌にふさわしく思えたからであります。その葉の姿形は大形の羽状複葉で、その葉は薬用として「虫瘤むしこぶ(虫卵、虫巣)」から薬用の五倍子ごばいしを取り得、御歯黒おはぐろなどの染色材料としても古くから用いられております。

 そして、さらに別図の『本草図譜』に「ぬるで、かつのき、えんふし」とあり、さらに「勝軍木せんぐんぼく、さいはいのき」との異名も記され、その図は、実時みどきで、葉も紅葉したものが美しく描かれ、これを「ぬるでもみじ」と称されております。
 そんな、美しき可頭乃木に青葛藤の花を、古代コスタリカ彩文土器に挿花頂しました。
 この緑々とした、夏の季に山里の緑々とした可頭乃木を観して、白膠木ぬるでと呼称させて観して下さい。

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