文化講座
露草の理美
この夏の季、野辺や路端の草木の下陰に、朝露をうけて鮮やかな青色の可愛らしい露草を観することができます。
図版[I]
『本草図譜』には、「
『万葉集』では「
(朝露に咲き誇っている露草のように、日が傾くにつれて消え入るばかりに思われるよ)と、「咲きすさびたる」は、「ほしいままにふるまい咲き薫っている」ことを示し、そんな花も日が斜き始めると、可愛い花も閉じてしまい、正に私の恋も消えていきそうであると、一時の露草に比喩させて切々と詠じられております。
そんな露草をさらに、次の歌では「草に
(露草で衣を染めて摺りたいが、変わりやすい色だと、聞くのがつらい)と、移りやすい恋心のつらさを露草に思い入れて、一人の娘が詠じております。
そして、集中九首詠まれた露草では、「移ろいやすく」「うつろふ色」「うつろふ心」「うつろひぬとも」と、露草の朝に開花して日中には閉じてしまうことに合せ、藍色の花で衣に摺り染めると、色褐せてしまうことなどから「移ろう花」として、多く詠ぜられているのです。そして、「月草」の字を当てての歌では、「月の満ち欠けの姿」を取り入れてのもので、後に別名に「蛍草」と呼称されたのもこれらの意を得てのものであります。
図版[II]
万葉人たちは、「移ろう色」のものは好まれなかったようで、そのことは、「青」は偽らないとするオリエント文明においての「聖色」であり、青い花の「燕子花、藍、桔梗」などが愛し詠まれ、その青花を衣に摺り染めにして恋などを成就させていたことから、青は大切な色であったのです。そんな花色の生命の短い露草は、薬草として「解熱、心臓、下痢止め、風邪、湿疹」などの薬効の高いことから食草としても愛されていたとされております。
そんな聖なる青色の大正時代の氷ガラス器に、一時の賞翫の理美を心して挿け表わした露草を図版[II]で参照して見て下さい。
どうか、この夏の季、露草を手折って一輪挿けとし、その一輪を白い衣や和紙などに摺り染めて、移ろいゆく青色から一時の露草の輝しき聖なる理美を味わって見て下さい。