図版[I]
図版[II]
新緑を迎えた季、山や林には緑々たる葉が繁り、そのうちでも
柏の葉を観すると、
端午の節句での柏餅の姿が浮んできます。
柏の葉の姿には、葉くびれの特性があり、そのくびれ美の葉が描かれた江戸時代の『
本草図譜』には「
大葉檪」と銘され、「檪」とはくぬぎ、つるばみ類を指し、それらの葉より大きな葉を有している意から名付けられたとされ、図でも葉のくびれが鮮やかに描かれていて、実やそれを包む
毬も細かく描かれ、特に
虫喰葉や
朽葉などから野性味が漂ってきます。図版[I]を参照して見て下さい。
そんな柏の木の4月の上旬頃には、新葉の脇から黄色の花房を
懸さげて咲き
薫う姿を観することができ、図版[II]で参照して見て下さい。
そして、柏には別名が多く付けられており「
柏木、
柏、
真柏、
葉柏、
也万加志波、
餅柏、
白樹子、
八枚手柏」などと呼称されており、往昔の『万葉集』では「
柏、
我之波」と称され、その柏の歌で、「古今
相聞往来の歌の類の上」と題された歌には、
(朝の柏がうるおう閏八河の岸の小竹の芽のように、恋しき人を偲んで寝たから夢に見えたことだ)と、「朝柏」は、朝の柏の葉が朝露にぬれて、
瑞々しく
潤おすようすから名付け表され、そして、「
小竹の
芽の」は「
思ひて」をおこす序詞とし、小竹の芽のひそやかな様子から、ひそやかに思って寝たところ恋しき人の夢をみたのだと、詠ぜられております。
そして、次の歌では、初秋に色づきはじめた柏の歌で、「七日、天皇と
太上天皇と
皇大后と、東の
常宮の
南大殿に在りて
肆宴したまひし歌一首」と題し、
(
稲見野の柏が赤く色づくのは、時期がきまっているが、私が君をお慕いする気持は、けして時期は分かりません)と
詠われ、この歌は「
孝謙天皇と
聖武天皇と光明皇后が、東の常宮の宴が催されたとき、少し赤く色づいた柏の葉に、清なる食物を盛りつけて食されたのです。
図版[III]
そんな清らかな風姿の趣きを、江戸時代の清なる黒
塗の耳
盥にたわわな葉を有した柏を
挿けて、その中央に
燕子花を
凛と挿けた花を、図版[III]で参照して見て下さい。
どうぞ、この新暦から旧暦の端午の日まで、柏葉を食物の敷皿として用いて、清らかな初夏の季を過ごしてみて下さい。