新春を迎へ、一年の平安を祈るために神社を参拝して御祓をうけるとき、榊に紙垂＜しで＞と麻布＜あさふ＞を結び懸＜か＞けた幣＜ぬさ＞をもってお祓いの儀が執り行われます。
　その神聖なる幣を、図版[I]にて参照して見て下さい。
　麻布は、往昔より榊などに合せてとても神聖なもので、『古語＜こご＞拾遺＜しゅうい＞』に「大嘗＜おほにへ＞（だいじょうさい）の當年＜とし＞には、木綿＜ゆふ＞、麻布＜あさ＞、及種種＜またくさぐさ＞の物を貢＜たてまつ＞る」と、さらに、平安初期の『延喜式＜えんぎしき＞』には「凡＜およそ＞六月、十二月の晦日＜つごもり＞に、神祇官＜じんぎくわん＞は御麻＜みぬさ＞・御贖＜みあがもの＞を供＜そな＞へ奉＜たてまつ＞れ。其＜そ＞の日＜ひ＞の申時＜さるのどき＞に、御麻等＜みぬさなど＞の物＜もの＞を陳列＜ちんれつ＞せよ」と記されております。
　この麻は、普通には大麻＜たいま＞のことを指し、桑科の一年草で、4月に種を蒔き、8月に採抜きをして繊維とします。また、麻は昭和22年の「大麻禁止条例」により、一般での栽培は禁止されております。
　その麻布を、古代コスタリカの鳥形彩文土器に、平安なる竹と合歓＜ねむ＞の実莢＜みさや＞を出合せて挿けた作品を、図版[II]で参照して見て下さい。
　万葉時代に麻は、大切な繊維であり、とりわけ娘子＜おとめ＞たちは種蒔＜たねまき＞から採取、さらに麻織に関わっており、その種蒔きの歌として、藤原＜ふぢはらの＞卿＜まへつきみ＞は、

（麻の衣を着ると懐かしく思い出される、紀伊の国の妹背の山で、麻の種を蒔いている愛しい娘子よ）と詠ぜられております。
　そして、次の歌では、摘み取った麻を繊る歌として、柿本人磨の歌集に「衣＜きぬ＞に寄＜よ＞する」と題し

（あれこれと人は言っても織りつづけよう、わたしの機の白い麻の衣は）と歌われ、ここでは、私の恋心について人々はさまざまに言うが、一心に麻の機織りをするが如くに恋続けることと、その強い恋心を麻の機織りに、比喩させて詠ぜられているのです。
　そして、さらに次の歌では、

（娘子らが麻を紡＜つむ＞ぐときに、糸巻き台に麻の苧＜お＞を掛けて積＜う＞むようには、倦むときもなく恋し続けることだなあ）と、ここでの「続麻」は「紡いだ麻糸」で、「たたり（）」は「紡いだ時に巻きつける三本立ちの台」、そして、「倦＜う＞む」から麻の糸巻にあきることがないように、けして恋心をあきらめることはないと、高らかに詠ぜられております。
　これらの歌のように、麻を詠い込むことは、麻の神聖さを重し、必ず麻に神が影向＜よろごう＞しているものと信じていたことが窺い知れます。
　どうぞ、この申の新しき年を迎え神社に詣でて、麻布と紙垂の幣でお祓いをうけて、幸なる年をお迎えになってみて下さい。