五月五日は「端午の節句」です。五月の 端 （ はじめ ） の 午 （ うま ） の日を示し、その 午 （ ゴ ） に 五 （ ゴ ） を通じさせて五日になったとされています。

一般的には「こどもの日」また「菖蒲の節句」とも呼称され、芳草である 菖蒲 （ しょうぶ ） と 蓬 （ よもぎ ） を軒に挿したり、床間に挿け飾って邪気を払い、節の夕方には、その菖蒲と蓬を湯船に浮べて入湯し、体の 穢 （ けが ） れを 祓 （ はら ） うのです。

その菖蒲と蓬を『万葉集』で大伴家持は

（ 杜鵑 （ ほととぎす ） が鳴く五月に、菖蒲と蓬を頭に挿し飾って、酒宴を開いて遊び楽しむ）と詠じ、菖蒲をあやめぐさと呼んでいました。 この菖蒲や蓬を 挿頭 （ かざす ） ことについて、聖武天皇は、「百官、諸人、こと 悉 （ ごと ） く菖蒲の 鬘 （ かづら ） をかくべし、かけざらん者は、宮中に入るべからず」との 詔 （ みことの ） りを発し、往時は「 菖蒲 （ あやめ ） 鬘 （ かづら ） 」をつける習慣があったのです。 そして家持は次の歌で   （杜鵑を待っているのに、まだ来て鳴かない。菖蒲を 薬玉 （ くすだま ） に挿し飾る五月五日が、まだ遠いからだろうか）と詠んでいます。 その薬玉飾りは（絵図）のように、 杜鵑花 （ さつき ） 、 楝 （ せんだん ） 、 花橘 （ はなたちばな ） 、蓬、菖蒲の五つの植物の真中に、三つの薬玉（ 麝香 （ じゃこう ） や 沈香 （ じんこう ） などの香薬を入れた袋）を飾り、それらを五彩の 綵縷 （ あやいと ） で結んで垂らしたものです。 その端午の節の到来を、家持は

【絵図】「古代薬玉之図」 『生花（せいか）早（はや）満奈飛（まなび）』（天保6年）

（ 燕子花 （ かきつばた ） の花を衣に摺り染めにして、 襲 （ きそ ） って恋人を探し求める日が、いよいよ来た）と詠じております。

ここでの燕子花の摺り染めの青色は、古代エジプトやオリエントの世界で「聖色」とされ、また「邪気を祓う色」でもあります。万葉時代において端午の節 は、恋を成就させるための公の日であり、その恋心が神聖なもので、恋への邪魔者を近づけないという意味が、この燕子花に込められているのです。そして、恋 を成就させることは、成人としての証でもあり、「 成年戒 （ せいねんかい ） ・ 成女戒 （ せいじょかい ） 」と称し、今日の成人の日でもあったのです。

また、「かきつばた」の音を「かつ（勝つ）」に通じさせ、戦勝の花として愛され、いけばなにおいても「 嫁 （ よめ ） 取り 婿 （ むこ ） 取り」の 言祝 （ ことほ ） ぎの花としても重されて来ました。
　このことからも是非、端午の節句には菖蒲と蓬に合せて、燕子花もあしらい挿けて、戦勝の 言祝 （ ことほ ） ぎを得て見て下さい。