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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

七夕の節句

七月七日は「七夕の節句」です。 七夕 たなばた は 「 棚機 たなばた (織物を作る機械)」に因むものです。そもそも七夕の起こりは、中国の伝承話に「 天河 あまのがわ の東方で 織杼 はたおり に身を尽す 織女 しょくじょ を哀れみ、天帝星は、 牛飼 うしかい 牽牛郎 けんぎゅうろう に嫁せる。しかし、その後二人は、伴なる暮らしの楽しさから仕事を怠るようになり、天帝星は、その めとして、毎年七月七日の一夜のみ、河を渡りて 逢瀬 おうせ ゆる す、と告げる」とした故事などによるものと言われております。

一夜しかない逢瀬から、天の川に一時でも早く恋の 掛橋 かけはし を渡して欲しいと、『万葉集』では「天の川 棚橋渡 たなはしわた 織女 たなばた のい渡らさむに棚橋渡せ」と詠われております。そして、そんな恋に く心を大伴家持は、

秋と言(い)へば心そ痛(いた)きうたて異(け)に花になそへて見まく欲(ほ)りかも

(秋と聞くと心が いた む、秋の美しい草花を見ると、織女星に逢いたくなるから)と詠い、その草花を 七種 ななくさ として山上 憶良 おくら は、

萩(はぎ)の花尾花葛(おばなくず)花撫子(なでしこ)が花女郎花(おみなえし)また藤袴朝顔(ふじばかまあさがお)が花

 

と詠い、「萩の花」では、恋の生々しさを、「尾花」では、男穂と女穂の交わりを、「葛花」では、久しい出会いを、「撫子」と「女郎花」では、 愛撫あいぶしたくなるような可愛らしい乙女おとめを、そして「藤袴」では、芳香ほうこうを、「朝顔(桔梗ききょう)」の青花の聖色で邪気から恋の守りを、と、それぞれの草花の特異性をとらえて、逢瀬を成就じょうじゅさせんとした思いが、この七種に詠い込められているのです。こうした想いを得て、いけばなでも様ざまにいけ表されております。「図版(1)」参照。
【図版1】「七夕の花」
『四方之薫』文化15年(1818)

さらに、次の歌では、

背子(せこ)にうら恋ひ居(お)れば天の川夜船漕(こ)ぐなる梶(かじ)の音(と)聞(き)こゆ

(あの方に恋い がれていると、天の川から、かじの音が聞こえてくるよ) と詠い「梶=楫」は「梶の木」に音通し、七夕の日には、里芋の葉に受けた清らかな露ですみり、ハート形をした梶の葉に、恋の願いを書きとどめて川に流すと、その梶の葉は船のかじとなり、天の川に届いて、願いが叶えられるのです。平安時代の『後拾遺ごしゅうい和歌集』に「天の川とわたる船の梶の葉に思ふことをも書きつくるかな」 の歌からも伺い知れます。
 このことから、京都では、七夕の前日には梶の葉 りが「カジー、カジー」と声を高ならせて洛中・洛外を歩き まわ ったのです。その梶の葉[図版(2)]を参照。

【図版2】「梶の葉」

この七夕のころは、まだ 梅雨 つゆ が上っていない所が多く、七夕の日に雨が降ることも多いと思います--。もしも雨が降ったとしたら、

この夕べ>降(ふ)り来る雨は彦星のはや漕(こ)ぐ船の櫂(かい)の散りかも

(織女に早く会いたいために、 き立って漕ぐために散ちる しずく )と思ってみて下さい。
 そして、

一年(ひととせ)に七日夜のみ逢ふ人の恋も過(す)ぎれば夜はふけゆくも

と詠われ、あっという間に七夕の逢瀬が過ぎてしまい、織女と牽牛郎も来年の逢瀬に願いを託すのです。

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