文化講座
梅の美学
日本の国の花木といえば桜が第一に挙げられます。ところが万葉時代には、中国から渡来した梅が桜の歌数の3倍の119首も詠まれております。
その梅には、文人としての本質的な要素が秘められており、中でも取分け学問を研き上げるための教えがあることから、往時の人にとっては最も大切な花木であったのです。
先ずは、九州・大宰府での大伴旅人の梅花の宴で、
(わが園に梅の花が散っている。その光景はまさに大空から雪が流れ来るのであろうかと思われる)と詠じております。 |
[図版1] 「千筋の香・明和5年(1768)」 [図版2] 「生花早満飛九編・嘉永2年(1849)」 |
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(雪景の中で月に照らし出されている梅の花を手折って、恋しい人に贈ってあげよう)と詠じております。この表現は中国の漢詩に見られる「梅を折りて
そして、この歌が我が国で最初に「雪、月、花」が詠まれたものでもあります。
そんな贈答の梅が、いけばなの古書で、奉書に水引をかげたものが載せられております。図版[2]を参照。
このように万葉集の梅の歌からは、往時の人たちが理想とする文人的な香りが漂うものが多く詠まれ、梅を愛することは文人としての証でもあったのです。そんなことがら学問の研鑽の度合によって、梅の開花に遅速があるといわれ、「
これらの梅の美学に触発をうけて、平安には学問の神さまと呼称された菅原道真の縁の神社には梅が、明治の夏目漱石の「我輩は猫」の中では、猫の足跡を梅に喩えたものなどが見られます。
どうかこの春は、梅の花を観しながら素晴らしい文人への啓発を受けて見て下さい。