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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

栂(つが)「刀我乃樹(とがのき)」


図版[I]
 新しき年を迎え、しんぼくとしても見られるつがの木に出合うと霊気が漂い、なにか強い力を頂けるような不思議な気持ちになります。
 『本草図譜(図版I)』には、「もみ」の一種として載せられ、「つが、きう」とある。「大樹にはもくなるあり、此類につきて久しくくちず古より「とが」と称す」とも記されている。
滝【たき】の上【うへ】の 三【み】船【ふね】の山に みづ枝【え】さし しじに生【お】ひたる とがの木の いや継【つ】ぎ継【つ】ぎに 万【よろづ】代【よ】に かくし知らさむ... 巻六 笠金村  歌意は、「吉野川の滝の激流のほとりの三船山に、みずみずしい枝を広げて、いっぱいに生い茂っているつがの木のように、つぎつぎに重ねて万代までこうしてお治めになるだろう。」
 この歌は、雑歌に所収され「養老七年がいの夏五月、吉野の離宮に幸す時の歌」と前書きされています。
 吉野は、奈良県吉野郡吉野町宮滝に離宮があり、てんとうの両帝は、しばしばここに行幸し歌を詠んでいます。
 ここでは、三船山の清らかな滝を、つがの木が艶やかに葉を広げる、その景観が、万代まで続くことを望んで詠んだものです。
 長歌は、以下のように続きます。
み吉野の 蜻【あき】蛉【づ】の宮は 神【かむ】からか 貴【たふと】くあらむ 国からか 見が欲【ほ】しからむ 山川【かは】を 清【きよ】み清【さや】けみ うべし神代ゆ 定めけらしも 「この、み吉野のあきの宮は、神であるためにとうといのであろうか。美しい風土だから、心が引き寄せられるのだろうか。山も川も、ささやかなので、真実、神代の昔から宮と定められてきたことである。」
 この長歌に詠まれているは、現在のつがで集中五首詠まれるうち、すべてが長歌で、のほか、樛木、都賀乃樹、都我能木の文字があてられています。
 いずれも「刀我乃樹のいやつぎつぎに」と表現するように、宮、都、天皇が万代までも末長く栄えることを願いながら、その美しい風土を誇りやかにたたえています。
 つが樅木もみのきに似て幹が堂々と直立し、常緑の美しい葉がはんして枝をゆうこんに広げるので、繁栄に結びつく樹として選び詠まれたものでしょう。マツ科の常緑高木で、木材は、建築、製紙用の樹皮からは、タンニンが採れます。古くは、染料、薬用にもされました。
 栂は、亭々とした樹形ながら枝ぶりに優雅さもあり煎茶向きの花材です。
 古代コスタリカの力強い動物土器に合わせつがの若枝の瑞々しさを引き立たせ、と楓を取り合わせ生けあげました。(図版II)
図版[II]

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