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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

三枝の三和の理美

 春の魁花さきがけばなとしての万葉植物では、梅にあわせて三枝の花があります。
 三枝は、現名の「三椏みつまた・三叉」のことで、3月から4月ごろ葉に先立って、銀白色でビロード質の筒状のつぼみをふくらませ、芳香を放ちながら可愛らしい黄色の花を咲かせます。(右の図参照)
 古くは中国から渡来したとされ、漢名を「黄瑞香おうずいこう結香けっこう」と称し、花の薫りを重して銘されています。そして、万葉名の三枝の起りとして古文書に「この三莖みつくきの草を採りて天皇に献奉たてまつりたることより、三枝部造さきくさべのみこの姓を賜る」記されております。
 そんな三枝を『万葉集』では、
春去(さ)れば先(ま)づ三枝(さきくさ)の幸(さき)くあらば 後にも逢(あ)はむな恋ひそ吾妹(わぎも)(作者未詳)
(春が訪れるとまっ先に咲く三椏のように、また後でも逢うことができるのだから恋しがらないでくれ、私の恋しい人よ)と歌い、三椏は幹から枝が3つに分離して生え、さらに三枝さんしに分れる形状の特性から、互いに離ればなれとなるのであるが、その枝元はひと元であることから「中」の枕詞であり、また「出合い、遭遇」の意を表すのです。そして、「三枝のサキク」と「幸くのサキク」の同音通から、先も幸いであることの意を高めて詠いあげているのです。
 そのことから次に山上憶良やまのうへのをくらは、長歌で、
世の人の 尊び願ふ 七種(ななくさ)の 宝も我は 何せむに...夕星の 夕(ゆふへ)になれば いざ寝よと 手を携(たづさ)はり 父母も うへはなさかり 三枝の 中にを寝むと 愛(うつく)しく しが語らへば...
(世間の人が尊んでいる七種の宝も、私には何になろう。夕暮れになると「さあ寝よう」と手を取りあって「お父さんもお母さんも離れないで、三椏のように真中で寝よう」と可愛らしく、あの子(古日ふるひ)が言うので)と、その最愛の子も今は病で亡くしてしまい、その哀しみを三枝の枝の特性に比喩させて切々と詠いあげております。
 このような三枝は、天(父)地(母)人(子)の和合の意を表す「三和」の理美として、伝統文化などでは尊されて伝えられております。また、三枝は古くからその優美で強靭な樹皮は、和紙の原料としてもよく知られております。
 どうか、この春には紙すきの山里や、近くの植物園などを訪れては、楚々とした三枝の黄花の枝の姿と芳香を嗅きながら、三和の理美の呪的なエネルギーを感じとってみて下さい。
万葉植物から伝統文化を学ぶ
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