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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

茅の理美


図版[I]

 この季、野辺や道端には細い葉から白穂を伸ばし、初夏の風にやわらかに靡くちがやを観することができます。
 茅は、古名では「ち、ぢ」と呼称され、今日では「茅花つばな」の名で愛されており、また、その白穂の姿から「白茅ちがや」の字が当てられております。
 そのたわわな風姿の茅に、笹百合を出合せ菜摘み平籠ひらかごに挿け表わした作品を図版[I]で参照して見て下さい。
 そして、古く『日本書紀』には、夏月なつに氷をかさないために、茅やすすきあしを厚く敷いて、その上に氷を載せたと記され、大切な氷をまもり得るための神聖な草であったようです。そして『万葉集』では「食の効」として重要視され、「紀女郎きのいらつめ大伴禰家持おほとものすくねやかもちに贈る歌二首」と題す一首に、
戯奴<わけ>がため吾<あ>が手もすまに春の野に抜<ぬ>ける茅花そ召<め>して肥<こ>えませ
(あなたの為に、私が手を休めないで春の野で抜いた茅花ですよ。どうぞ食べてお太りなさい)とあり、この紀女郎の歌に対して次の「大伴家持の贈りこたふる歌二首」と題する一首では、


図版[II]
吾<あ>が君に戯奴は恋<こ>からし賜くたま>りたる茅花を食<は>めどいや痩<や>せに痩す
(わが君に私めは恋しているらしいです。頂いた茅花を食べましたが、ますます痩せるばかりなのです)と、茅花の食草としての効の力が歌われております。
 その茅は、春の若葉に花穂を抜き取って食すと元気が得られるとされ、また、この季の生長した根茎「白茅根はくぼうこん」を煎じて飲めば「利尿や止血や発汗はっかん剤」など多くの病の薬効があり、とりわけ小児の滋養強壮としての効が高いとされており、江戸時代には、百姓の子たちが「つばな売り」をしたとされております。
 その白芽の根の姿を、江戸時代の『本草図譜』を図版[II]で参照して見て下さい。

図版[III]
 そして、その小児の元気の効として「夏越なごしはらえ六月みなづきばらえ(水無月祓)」が6月の晦日から7月に、全国の神社などで「茅の輪」が設置され、小児たちがこの茅の輪をくぐると、罪や穢を祓い心身が清められ、災厄や病気から危れる効があるのです。
 また、往昔より「 」の音通の効から「智、智恵」を得ることの効が大であることから「茅の輪くぐり」の茅の輪は、「茅や葦や薄」などを素材として作られているのです。
 その「茅の輪」の姿を図版[III]で参照して見て下さい。
 どうぞ、この夏越で梅雨の季、茅を煎じて飲み合せて小児に添いて茅輪をくぐりて、身体堅固と心などの弱りを止め、生命に活力をもたせてみてはと思います。

万葉植物から伝統文化を学ぶ
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