愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

 いずれの野や里山を訪れてみると、緑々とした青葉の木葉を観じることがあり、その中で楓の瑞々しき葉との出会うことがあります。
 そして『万葉集』にて楓の歌は二首がまれております。その一首として、『そうもん』(恋心)の歌として、作者未詳の二首の歌のうちの一首として、
子【こ】持【もち】山【やま】若【わか】加【か】敞【へ】流【る】弓【で】のもみつまで 寝【ね】もと我【わ】は思ふ汝【な】はあどか思ふ  (児毛知山の若楓が色づくまでに、いっしょに愛し合っていたいと私は思うが、おまえはどう思うか)と歌われております。
 そして、この歌の「もみつまで」の「もみつ」は、草木の葉が晩秋に緑葉が黄や紅に変色することから、恋心のうつろいがせつせつと歌われています。
 そして、もう一首の歌として、
わが屋【や】戸【ど】にもみつ蝦【かへる】手【で】見るごとに 妹を懸【か】けつつ恋【こ】ひぬ日【ひ】は無【な】し (我が家の庭に色付く楓を見るたびに、あなたを心に掛けて恋しく思わない日はありません)と歌われており、この歌では、青色葉が美しく紅葉した楓の色相に妹の紅顔を偲んでの歌であります。
 そして、平安中期の『めようしょう』には「鶏頭かへるでの」とあり、さらに、古名として、へる。さらに別名として、たかかへでたか紅葉もみぢと称されており、楓の葉が、最もかえでのようにみえるのは、晩春から初夏にかけてのころで、この時期から、その名にふさわしい姿葉を示して称されました。
 そして、万葉時代に楓は、薬用として供されたほか、建築や家具の材としても好んで用いられております。そして、室町から江戸時には、せんちゃとして、また、いけばなの瓶花としても好ましくけあげられております。

 そんな楓の緑々とした姿美を、江戸時代のぐろつぼに美しき紅花を出合せて、軽ろやかなる葉面美の楓をけ表わした作品を御覧下さい。

万葉植物から伝統文化を学ぶ
このページの一番上へ