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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

鶏頭の理美


図版[I]

 夏から秋の季に入るころ、庭などに赤いけいの花の咲き薫る姿を観することができます。
 鶏頭は、正に鶏の鶏冠とさかの如くの花姿から名付けられ、別名として「鶏冠草とさかぐさ鶏冠花けいかんか」と銘せられております。
 そして、『万葉集』では「韓藍、辛藍、鶏冠草」の字が当てられ、すべて「からあゐ」と呼称し、「韓藍」は、からの国(朝鮮南部の古称)から渡来した藍の意味であり、万葉時代には山藍やまあゐの葉を衣などにり染めとしたもので、神聖な儀式の染でもありました。その鶏頭の葉も摺り染めにすると色相がとてもよく似ているところから、韓の国からもたらされた鶏頭の藍染の草の意から銘せられたのです。
 その鶏頭の葉と花を摺り染めにした図を、図版[I]で参照して見て下さい。
 集中での染めの歌として
秋去【さ】らば移【うつ】しもせむと吾が蒔【ま】きし韓藍の花を誰【たれ】か採【つ】みけむ(作者未詳)
(秋が来たら移し染めにでもしようと、私が蒔いた鶏頭の花を、誰が摘んでしまったのだろう)と歌われ、そのうちの秋ごろには、自分のものにしようと心に決めていた娘を、見知ぬ男に奪われてしまったことだと、恋心に比喩させて詠ぜられております。


図版[II]

図版[III]
 そして、次歌では、
隠【こも】りには恋【こ】ひて死ぬともみ苑生【そのふ】の鶏冠草【からあゐ】の花の色に出【い】でめやも(作者未詳)
(じっと心に堪えながら、恋して死ぬようなことがあっても、あなたの庭の鶏頭の花のように、顔色に出したりしません)と歌われ、この歌は、「こんそうもんおほらいの歌類の上」として所収され、さらに「物に寄せて思ひをぶる歌」と前書きがあり、「相聞」即ち、恋の歌とし、あでやかな鶏頭の花のように、けっして顔色に表わし出すことはなく、恋心が他人に知られることはないものと、花色と顔色を比喩させて詠じられております。
 そして、そんな鶏頭の葉や茎は食用とし、さらに、花や種子の日干しにしたものを煎服すれば赤痢や痔疾に効くとされております。
 その可愛らしい鶏冠の花に女郎花を出会せて、中国の清時代の文のついしゅ漆のごうけ表わした作品を図版[II]で、そしてさらに、挿花『すじふもと』明和丁亥(1767年)の、せん利休りきゅうに縁りの千道安どうあんが、薄と鶏冠花をつつがたはないれに挿けた茶の湯の花を、図版[III]で参照して見て下さい。
 どうぞこの季、鶏頭のやさしき葉を採して、移し染め・摺り染めとし、神聖なる韓藍染めを楽しみながら恋などを成就させて見て下さい。

万葉植物から伝統文化を学ぶ
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