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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

重陽の節句に大切な栗

まず万葉植物とは、『万葉集』4500首の中に登場する草、木、竹、苔、海藻の157余種の植物を指します。

ここでは、日本の伝統文化の中から「五節句」を中心に選び、そこに登場する万葉植物の特異な呪術性などを、わかり易くお話していきます。

今号は、秋の果実の代表的なものとして、親しみ食されている「栗」です。

三栗(みつぐり)の那賀(なか)に向へる曝井(さらしゐ)の絶(た)えず通(かよ)はむそこに妻(つま)もが (作者未詳)

(三栗の那賀(中)に向きあって流れている泉のように、絶えず通おうと思う。そこにも愛しい恋人がいたらよいのに)と詠われています。

ここで三栗の右絵をご覧下さい。

三栗とは、毬の中に三つの果実があり、真中の実を左右外側の実が挟み抱く姿から、両外側の実は父と母で、中の実は子供に喩えられ、その連なる実の姿から万葉の人は、親子の温愛をみてとったのです。

またさらに、真中の実に左右の実が向い合っていることから、「迎へる」ことや「遭遇」を意味し、愛しい人との逢瀬を意味しているのです。

そして、その三栗の姿から啓発をうけて、名付けられた万葉植物に「 波波 はは 」現名「 母貝 ばいも 」があり、この球根の姿が三栗に似ているところから「 波波久里 ははくり 」と名付けられてます。

集中には、さらに温愛の長歌として山上憶良は

「瓜食(は)めば 子ども思ほゆ 栗食めば まして偲(しの)はゆ・・・」

(瓜を食べると子どものことが思い出される。栗を食べると、なおさら偲ばれる)と詠んでいます。
これらのことを意して作られたと思われる童謡「里の秋」(斉藤信夫 作詩)には、

「しずかなしずかな 里の秋 お背戸に木の実の 落ちる夜は ああ 母さんとただ二人 栗の実 煮てます いろりばた」さらに2番では「・・・ああ 父さんのあの笑顔 栗の実 たべては 思い出す」

と戦地に赴いているお父さんのことを慕っての、歌が拾い出せます。

こうした肉親を慕う節句が、五節句のうちの九月九日の「 重陽 ちょうよう の節句」です。別に「菊の節句」とも称され、中国では古くからこの日に、 さかずき に菊を浮べて飲み、 茱萸 しゆゆ 川薑 かわはじかみ )の実枝を 挿頭 かざ して、山登りをすると、離れ離れになっている肉親や親友との遭遇が叶うとされているのです。

日本では、菊酒に合わせて栗飯を食することが大切とされ、「栗の節句」とも呼称されています。

この季に三栗を拾い食して、万葉人の温愛の心を体感してみて下さい。

万葉植物から伝統文化を学ぶ
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