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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

譲葉の理美


図版[I]
 秋の紅葉も散り終えようとする霜月、次の師走に向けて庭の樹の中でも、新しい年を迎えるための縁りの樹に目線が向かいます。
 新たなる年を迎えるに因む樹として「譲葉ゆずりは」があります。譲葉は名の通り、春に出た若葉が生長すると前年の葉は落ち、新旧の葉が入れ替わることから名付けられ「交譲木ゆずりは」とも記され、別名「親子草」とも呼ばれています。(図版[I]を参照してください)また「正月木」とも称され、その葉の入れ替わりの特性を重して正月飾りとして、床間や玄関やその脇の軒下などに注連しめ縄に裏白うらじろと合わせてけ飾られます。(図版[II]を参照してください)


図版[II]
 その譲葉を『万葉集』では、弓削皇子ゆげのみこ相聞そうもん歌に
古(いにしへ)に恋(こ)ふる鳥かも弓絃葉(ゆづるは)の 御井(みゐ)の上より鳴き渡り行く
(あの鳥は、天武天皇のありし昔を恋い焦がれている鳥であろうか。譲葉が茂る泉の上を鳴きながら渡り過ぎていくことよ)と歌われております。
 この歌の前書きには「吉野宮にいでませる時に、弓削皇子、額田王ぬかたのおほきみに贈りたまふる歌一首」とあり、弓削皇子は天武天皇の第6皇子であり、その父(大海人皇子おおあまのみこ)と額田王は若くして結ばれ、のちに伯父の天智天皇の寵愛をもうけるのです。
 ここでは、その天智の皇女の持統天皇の吉野宮への行幸みゆきの折に歌われたものですが、もう時代が変わったことを「弓絃葉」に掛けて、大海人皇子と額田王との古の恋の高鳴りを詠じて贈ったものなのです。
 そんな譲葉を『枕草子』では、「譲る葉のいみじうふさやかに つやめきたるは いと青き清げなるに」と、譲葉の生長した葉の艶やかな姿は、とても青々として清らかな様子であると詠じられております。
 どうぞ、新たなる年を迎えるに当り正月の飾りものの中には、譲葉を忘れることなく飾り、青々とした新鮮な心で新年を迎えてみて下さい。
万葉植物から伝統文化を学ぶ
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