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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

宿木の理美



図版[I]

図版[II]

図版[III]

 新たなる年を迎え、御神木に出会って拍手をうつと樹から高きれいしんさが漂います。そしてまた、枝葉を宿らす宿やどりからは生命の生成美を観することができます。
 その宿木が宿る木は、えのきけやきぶなみずならくりむく、桜などの落葉樹の高木であり、平安時代の『みょうしょう』には「、一名やどり、一言」その他の古名としては「寄与木ほよ、寄生・寄生木(ほよ、ほや、やどりぎ)、」、そして別名として「とびづたとびからすのうゑ」と呼称されております。
 宿木は、木に宿した後の2月から3月頃に枝先の葉の間に、柄のない黄色の小さな花を咲かせ、11月から12月頃には淡黄色の可愛い果実を熟します。その宿木の姿を図版[I]で、さらに花と果実の図を[II]で参照して見て下さい。
 そして『万葉集』では、「保与」と呼ばれ、「てんぴやうしょうほう二年正月二日に、こくちょうあへもろもろこおりのつかさ等に給ふ宴の歌一首」と題された歌に、
あしひきの山の木【こ】末【ぬれ】の保【ほ】与【よ】取りて かざしつらくは千【ち】年【とせ】寿【ほ】くとそ
(山のこずえの宿木を採って、髪に挿したのは、千年の命を祝う気持ちだからだ)と歌い、この歌は、正月のきょうえんの席でうたわれたものであり、「あしひき」は山の枕詞で、「かざしつらく」はざしのことで、大樹に寄生する宿木を髪に挿すことによって、千年の生命の尊さを祈りて詠じられたのです。
 この正月のことぎを得て、次の歌では
正【む】月【つき】立つ春の初めにかくしつつ 相【あひ】し恵【ゑ】美【み】てば時じけめやも(久【く】米【め】朝【あ】臣【そ】広【ひろ】縄【つな】)
(正月の春の初めに、こうやって皆なで笑えば、いつでも楽しかろう)と、お正月の言祝ぎ感が漂い、正月に微笑むことにより、一年に繁栄を招き得ることができるとし、微笑は儀礼的な習い事としても行われていたとされております。
 そして、平安時代の初期の『えんしき』には、「せんだいじょうさい(おほにへのまつり)のしんれう」に「ひのきのまきづるやどりまさきのかづらかげやまたちばな」と記され、「踐祚」は「新たなる天皇の位をうけ継ぐ」ことでの「大嘗祭」であることから、本年は、正にその縁りの年であり、神的な木・草・果を神に供えることから、宿木は大切な花果木であります。
 この二首の歌を得て、古代コスタ・リカの微笑み人面土器に、宿木に初春に芽を覗かせたびるを靡かせ、下草としてかげのかずらを出合せて、微笑あふれる新年の言祝ぎの花としてけ表した作品[III]を参照して見て下さい。
 どうぞ、新たなる春の季、寄木の宿る樹を観しては微笑み柏手て、言祝ぎあふれる一年を迎へて見て下さい。

万葉植物から伝統文化を学ぶ
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