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万葉植物から伝統文化を学ぶ

万葉いけばな研究家
庄司 信洲

定家葛の環の理美

 初夏の季を迎えるころになると、野や山のあちこちで蔓性の植物が蔓先に若葉をひろげながら這い伸びる姿を観することが出来ます。『万葉集』で詠まれている蔓性植物は「定家葛ていかかずら真葛さねかずら青葛藤あおつづらふじ野豆のまめ野老ところ屁糞葛へくそかずら」があります。何れも初夏の花時と夏から秋に実を懸け垂れるころの姿は、自然の生命美を感じさせてくれます。


図版[1]




図版[2]

 今回はその中から定家葛を取り挙げます。その定家葛は、集中で「都多つた石綱いはつな玉葛たまかずら」と呼ばれて歌われており、次の歌に 石綱<いはつな>のまた変老<お>ち返り青丹<あおに>よし 奈良の都をまたも見むかも (作者未詳)
(岩にう定家葛の蔓のように、また若返って美しい奈良の都を再び見ることができるであろうか)とあり、定家葛の蔓が這い伸びて再び元に戻る生態の特性から、年齢が少しでも若返ることが出来るのであればと、都に戻ることを切望して詠まれております。
 この歌での「石綱」と詠まれているのは、定家葛の漢名の「絡石らくせき」と「懸石けんせき」に因むものであり、「絡石・懸成」とは岩にからみ付きながら生へ伸びながら懸け垂れ、蔓先がめぐりながら円を描くように岩に這う姿を指すことを意するのです。
 その定家葛をいけばな古書から拾い出せます。あみかごと記された荒目釣篭あらめつりかごに水受瓶を入れて、自然に這い伸びる定家葛の特性を充分に意していけ表わされております。図版[1]を参照して下さい。
 そして、[2]として、可憐な白花をたわわに咲かせた定家葛を、手付篭の手に這いまとわせながらけ表わした作品を、合わせて載せましたので参照して下さい。
 この定家葛は、秋になると二股状の細長い実鞘みさやを垂らし、万葉人はその狭い実鞘の間に神が影向ようごう(訪れる)すると信じて重したのです。
 どうぞ、この初夏には是非とも定家葛の可憐な花が薫風をうけて風車のように舞い散る姿と、生々しく這い伸びる蔓の姿を合せて観し、その生態の特性から「再び、返る」としての環の理美の呪術性から再生などの願望を成就させて見て下さい。
万葉植物から伝統文化を学ぶ
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