文化講座
第20回 究極の温泉・恐山温泉 第1回目/連載全2回
究極の温泉・恐山の野外温泉小屋
中学生の頃から始まった登山や旅は、私の生き方につながる重要な人生そのものの一部になったように思います。そこに高校2年から古美術、特に刀剣への魅力にとりつかれ、鑑定の勉強を大学時代に本格的にしたことが、将来の日本骨董学院の設立への大きな転機となったように思います。
青森の八戸市美術館の素晴らしい縄文土器
旅は5度に及ぶ懐かしい東北地方、すなはち私は北への指向が強く、考えてみれば、やはり父の父方の先祖は山形県と秋田県境の鳥海山を開拓した一族であり、父の母方の先祖は茨城(常陸)時代から歴代旧久保田藩佐竹家に仕えて、関ヶ原の戦い以後、外様大名として、秋田に移封された後に久保田藩佐竹家の経済のためにひそかに鉱山開発をしたという先祖の血が私を北に向かわせたのかもしれません。
大学一年のときの友だちと東北旅行したおりに、恐山の宿坊に泊まったことから、約1200年の歴史がある恐山への興味がより深くなり、さらに深く知りたいという願望を抱き始めました。「恐山」という名前に興味を抱いたことも、先祖の霊が戻って来て、「いたこ」と呼ばれる霊媒師の口を借りて子孫に伝えられるという信仰も、恐ろしげな環境と本州最北端の暗い風土の雰囲気に合うものがあります。さすがに冬の東北旅行の折りには、厳寒期の恐山は閉山していて、一般公開はしてませんでしたから、入山することは出来ませんでした。
(現在も通常は11月上旬から翌年の4月下旬まで冬季閉山します。詳細は最後にあります寺の受付にお尋ね下さい)
夕陽に光る宇曽利山湖遠望
さて実際に訪れてみて、見て回りましたら、これは恐ろしい場所だと改めて感じました。山の中央左手に宇曽利山湖(うそりさんこ)があり鬱蒼とした荒れた光景が眼にはいりました。古来、死者の魂が集まる霊場とされ、信仰の山として今日まで守り伝えられてきました。恐山という名前は推測ですが、宇曽利山湖が「うそりさん」そして訛り、恐ろしい山のイメージと重なり、「おそれさん(恐山)」になった可能性は否定できません。
私が最初に訪れたのは、私たち学生は夏休みでしたからやはり暑く、お堂の縁側によしづを張り、夜露をしのぐようなそんなところで寝た記憶があります。朝ごはんも簡素な肉のない精進料理、薄味の「肉じゃが」の肉の代わりに茄子としらたき、玉ねぎが入ったのがメインで、他にはお漬け物と生卵、味噌汁、ごはんだったと覚えているくらいです。でも空腹な胃にはおいしかった記憶があります。そんな旅の原点がありましたから、その後もどこでも寝られますし、気にせずに楽しめるようになりました。
昔とは比較にならない、豪華な夕食
朝には勤行が義務付けられ、6時から本堂での読経をします。それは今でも守られてます。なぜならここは信仰の山であり、お参りのための宿泊が前提だからです。お寺側も相手が観光だと分かりつつも、まあお寺ですから勤行だけはお付き合いくださいよという感じです。
私は学生時代の後に出来た宿坊にも家族で宿泊してますから、本堂宿泊も含めたこれまでの全てに宿泊しています。現在の宿坊は再建された、それはもう立派な和風ホテルそのもので、部屋はきれいで広く、食事も基本は精進料理ですが、立派な食堂で美しい器に入り、満足する美味しさです。
究極の恐山温泉野外のひなびた温泉小屋
私が最初に訪れて、すごくひなびた魅力を感じたのが、まず野外温泉小屋でした。夕方に入りましたが、広い参道の左片隅にある掘っ立て小屋かと思う、究極のひなびた温泉で、小さな20ワットくらいの裸電球がポツリとついた薄暗い温泉で、簡素な脱衣場があり、即湯船がありという狭さで、驚くのは硫黄泉のため「湯の華」が湯船一面を覆い、それをかき分け入りました。一方、窓を開けると、少し夕日に赤く染まった空と遠く宇曽利山湖の山並みが見えて、あの世の温泉に入っているのではないかと思わせる感じでした。今も建て直してはありますが、その場所に温泉小屋はあります。お勧めの「ザ・恐山温泉」です。もちろん女性方には新館ホテルの中に素晴らしい内湯浴場がありますから、そちらも利用できますし、その中間の野外温泉小屋も本館裏手にありますから、宿の方に聞いてください。レベル1の究極のひなびた温泉からレベル2の温泉小屋、さらにレベル3の豪華な内湯まで、お好みによりお楽しみいただけます。昔の東北の温泉は男女混浴というのがかなりありましたが、さすがに現在は少なくなりました。
温泉の源泉の一つ
素晴らしいといえば素晴らしいし、経験の少ない学生からみても、見ただけでこれは究極の温泉だという感じはしました。これまでいろいろな温泉を経験してきましたが、ここは最初の印象とおりに「究極の温泉」でした。当時の写真はなく、現在の宿坊の大風呂とあと二ヶ所ある屋外の温泉の写真です。きれいになりました。
美しいグリーンの湯の色
私は車で参りましたから、帰りはむつ湾フェリー乗り場の脇野沢から蟹田に渡り、そこから近い大平山元遺跡出土の世界最古のやきもの、今から16500年前の縄文土器を拝見しに行きました。その事は愛知共済の連載・掌の骨董( ※第41回・こちらをクリック )に書きましたから、是非ともお読みください。
次回は「恐山の独自の歴史と宗教」について考えてみます。
八戸美術館の有名な骨製髪飾り
●恐山菩提寺 利用案内
住所:〒035-0021青森県むつ市大字田名部字宇曽利山3-2
TEL:0175-22-3825(恐山菩提寺 寺務所)
開山期間:毎年5月1日〜10月31日
開山時間:午前6時〜午後6時 入山料:500円
※こちらをクリックしますと同じ著者によります「掌の骨董」にリンクできます。