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旅・つれづれなるままに

細矢 隆男

第8回 九州編 太宰府と柳川


柳川名物「鰻せいろ蒸し」

 私は、現在は奈良に住んでますが、東京生まれの東京育ちですから、東京から九州はかなり遠く、普通はあまり縁がなく、行くこともありませんでしたが、古美術を仕事にしたため、陶磁器関係の勉強や取材から伊万里、平戸や唐津、薩摩、長崎を拠点に会員の皆様と出かけてガイドしたり、点在する陶芸家の方々を訪問することが多くなり、結果かなりの回数九州に足を運ぶことになりました。

 また以前、NHKの「趣味悠々」の講師を8回務めた折に、放送回数にしてその内の2回分、5日ほど伊万里磁器の撮影で現地に参りました。伊万里は日本初の磁器を焼いた窯場で、日本一の伊万里磁器の美術館「九州陶磁文化館」があります。伊万里がお好きな方は必見のスポットと言える場所です。また今右衛門古陶磁美術館もすばらしく、是非お勧めです。(ともに現在はコロナ休館の可能性が不定期にありますから、電話かネットで確認してください)

 さて今回取り上げます太宰府は二度目、柳川は初めての訪問となります。


太宰府天満宮の古大木の楠が見事です。朱の神橋と古木の緑が美しい。

 太宰府はかなり前ですが、天満宮の境内や他のお寺などで骨董市を含めたくさん楽しませていただきました。門前のお店の中には現代作品ですが、珍しい黄色い倣薩摩ガラスを販売する店があり、たのしませてもらいました。今はコロナの影響で参拝の方々も減り、従って商店街も静かでした。

 太宰府を訪れる方が必ず訪れるのが都府楼遺跡と、そこに隣接した素晴らしい仏像を誇る観世音寺です。僧侶に仏教僧としての国による正式な認定制度である戒壇を聖武天皇は熱望し、結果鑑真和尚が5度に渡る渡海の末、失明の苦難に遭いながら聖武天皇の要請に応え、東大寺に戒壇院を建立しました。更に九州太宰府に一ヶ所、関東の下野の国の薬師寺に一ヶ所、合計3ヶ所の戒壇が作られ、日本の仏教の発展に大きく寄与されました。さらに一段レベルの上のマニアは観世音寺戒壇院に隣接した奈良時代の名僧、玄昉の墓所を訪れるでしょう。玄昉は遣唐使派遣の僧として、本場の密教を学び帰国した優秀な僧侶で唐から帰国後、文武天皇の皇后宮子の病の治療に多大なる功績あり、重用された結果、皇后との関係を疑われ太宰府に流され、そこで亡くなりました。その墓がひっそりとあります。後の孝謙女帝、短期の淳仁天皇をはさみ再度天皇となり称徳天皇となりますが、この称徳天皇と道鏡の場合と似ています。天皇の命令は絶対であり、ふたりの僧はその運命を委ねるしかなかったと思われます。作家・黒岩重吾は「弓削道鏡」で菊池寛賞を受賞した直木賞作家である。その中で、人間の心理の機微をみごとに表現しており、さすが推理作家で鍛えた百戦錬磨の筆力のある強者、黒岩重吾だけのことはあり、みごとというしかありません。


吉野ヶ里遺跡

 さて太宰府に話を戻しますが、隣接して九州国立博物館があり、こちらも人気を博してます。九州は神話のふるさと、古代日本史、歴史の舞台です。縄文遺跡、さらに弥生遺跡として全国的に有名な吉野ヶ里遺跡も見ごたえがあります。戦いと死のリアルな遺跡です。また北部九州は装飾古墳の宝庫です。以前日本骨董学院会員で、古代史・古墳研究家の鶴岡さんと熊本から福岡の装飾古墳の大半を一緒に周り、感銘を受けたことがありました。


装飾古墳内部。

 柳川は鎌倉時代から戦国時代まで蒲池氏の支配を受け、その後は豊臣秀吉に味方した立花宗茂が改易となり、関ヶ原の戦いで石田三成を捕らえた功績から田中吉政が支配者となります。平城に近い城廓を整備して、今に残る堀を築きました。ですから大阪城みたいに立派な城跡があるわけではありません。代わりに船頭さんの案内で堀を巡る水郷巡りに人気があります。

 詩人作詞家として有名な北原白秋のふるさとでもあります。
 たれもが口ずさんだ名曲「この道」、「ペチカ」があります。

 柳川のもう一つの顔は旅人を楽しませてくれる、うなぎ料理です。今では300年の歴史があり、老舗とされる本吉屋があります。ごはんごと蒸すせいろ蒸しによる鰻は珍しく、全国の鰻ファンから高い評価を得ています。私は埼玉、愛知、この柳川と日本の鰻で三本の指に入る名店だと思います。


趣のある本吉屋本店

 関東は焼いて、蒸して、タレに浸けてご飯の上に乗せます。蒸した時に出る脂は抜けます。関西は焼いてタレを浸けながらまた焼き、香ばしいくらいにしっかり焼きます。焼いている過程で脂はやはり抜けます。しかし柳川の老舗の本吉屋の焼いてタレで十分味付けした鰻をせいろのまま蒸し出てきます。ですから普通蒸した時に出る脂がご飯に染み込み、抜け落ちることがないのが柳川鰻の満足感十分、栄養満点の特徴です。さらに特製鰻にはご飯の間にまたうなぎが二重にはいっていて、ボリュームたっぷり過ぎなくらいでした。朝の食事抜きで、昼にここの「特製鰻せいろ蒸し」をいただけば、もう夕食抜きで十分の栄養です。手入れの行き届いた和風庭園を見ながらいただく鰻せいろ蒸しは格別です。


本吉屋の特製せいろ蒸し鰻

 水郷巡りした後にゆっくり鰻を楽しむもよし、楽しんだ後に水郷めぐりしつつ、いい気持ちで眠くなりながら船にゆられるのもいいでしょう。


水郷巡り

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