愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

旅・つれづれなるままに

細矢 隆男

第13回 北温泉(栃木県那須郡那須町湯本151)


北温泉

 山の温泉と聞くと、すぐに汚い所と連想する方々がいます。元々温泉は湯治場として病人の体力回復、過酷な労働を強いられていた農民が収穫を済ませ、体力の回復、いわゆる骨休めに出掛けたところが多いのです。ですから歴史もあり、江戸時代からの貧しい農民相手であれば施設も古く、質素で当然傷んできます。逆にいえば古く傷んだ施設の温泉は歴史も古く、愛されて来た伝統ある名湯といえます。前回の湯沢・泥湯温泉も同じです。


内湯 天狗の湯

 私が北温泉に最初に出かけたのは、学生時代の終わりころのことだったと思います。かれこれ50数年経ちました。冬の雪がまだ道を覆い、那須岳のロープウェイ入口まではスキー場でもあり、バスはありましたから、そこまでバスで行き、そこからの下りは歩いて行きました。50センチ近く積もった雪の中を歩くのは大変ですが、高校時代に友人と春山によく出掛け、一泊で雪に覆われていた尾瀬ヶ原を挟んだ燧ケ岳(標高2356mは雪に覆われ道が分からず、面倒なので真っ直ぐ頂上を目指したりしました)と至仏山(標高2228m)を踏破するという無茶をしたことから考えれば、訳もないことでした。


玄関の薪ストーブ

 北温泉旅館は奈良時代の宝亀年間(770年頃)に発見されたという歴史ある湯治宿で、谷あいの一軒宿です。現存する建物で古いのは安政年間(1854年~1860年)の部屋が現在も使われています。この宿はいわゆる一軒宿で、周りには店一軒もありません。昔はこの宿に売店があり、ちょっとしたおやつやおみやげを販売してましたが、今はありません。

 考えてみれば、私自身はこれまでこの北温泉旅館に一番回数多く来ていると思います。中には切羽詰まって12日間原稿書きで逗留したこともありました。まあそれだけ自分には気に入った、落ち着ける場所ということになります。昔のことですから、かなり安くしてくれたように思います。

 なぜこの温泉が特に好きなのでしょうか?考えてみました。個人の好き嫌いですから、勝手を書くことを許していただきます。

北温泉旅館を好きな理由

  • ①一軒宿であること。玄関入ってすぐの達磨ストーブが良い。環境が静か。
  • ②谷あいというか谷底にあること。どこかに出掛けようという気が起きないのがいい。
  • ③大自然に囲まれて、現代でも珍しい携帯電波も届きにくい環境であること。

食堂の磨きぬかれた古色
  • ④建物は古いがしっかりしていて、磨きぬかれたひなびた感じ、古色があること。古色を汚いと感じる人は古い温泉を愛する資格がありません。
  • ⑤食事がすごくおいしく、宿代が二食付きで安いこと。わたしはいつも夕食に出る川魚の甘露煮が嬉しいです。
    (※現在はしばらくの間、自炊、素泊まりだけを承っております。)
  • ⑥好きなネコが囲炉裏のそばに何匹かいること。
  • ⑦内湯、露天風呂、女性専用風呂などがたくさんあり、楽しめること。源泉掛け流しで湯量がものすごく豊富。これだけバンバン出ている温泉は少ない。湯温も調整できる。
  • ⑧いつでも温泉に入れること。これは大事なことなんです。特に冬場はありがたい。
  • ⑨宿の方が親切なこと。

安政年間に出来た客室
  • ⑩夏は夜でも布団が必要なくらい涼しく、避暑に最適。
    静かなこと。寝ていて雨、雹や霰が降ると音が聞こえます。
  • ⑪数多く泊まると安くなること。自炊ならもっと安い。
  • ⑫ランチは宿代金には入らないが、頼めば作ってくれること。これも安い。
  • ⑬古民具がたくさん残っていて、さながら民俗資料館のよう。
  • ⑭天皇の写真や日露戦争当時の資料も壁に掛けてあること
  • ⑮館内が清潔なこと。古色と汚れは違います。

ひなびた内湯の一つ
  • ⑯部屋から内湯が近いこと。これも助かります。
  • ⑰寒いときは部屋に「こたつ(炬燵)」があり、布団やこたつをつなげて暖かく寝られます。

 ざっと挙げただけで⑰もありました。まだありました。

  • ⑱打たせ湯があり、肩凝りに効きます。以前は卓球場もありましたが、今はどうでしょうか?

 などなどです。これだけ好きな理由を挙げられる温泉は少ないと思います。是非一度お出かけください。

 また北温泉に来る途中の湯本の「鹿の湯」は立ち寄り湯ですが、人気が高くて湯質も白い湯で、北温泉のきれいな透明な湯とは湯質が違います。

 北温泉旅館は一時期流行った映画「テルマエ・ロマエ」に使われた温泉です。


珍しい温泉プール

 豊富な湯量を誇る。

◎著者所有の写真は古く、掲載の写真は北温泉HPより借用いたしました。

※骨董連載へアクセス


旅・つれづれなるままに
このページの一番上へ