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旅・つれづれなるままに

細矢 隆男

第39回 大和三山を訪ねる・「天香久山」についての試論《1》


天香久山遠望

 私は若い頃から文学と日本の古美術に傾倒し、それに関連した日本の古代史に興味を持ち、ずっと勉強を続けてきました。若い頃は哲学も勉強してましたから、哲学者で歴史家の梅原猛先生の著作を読み、その後は前にも書きました歴史学者の小林恵子(やすこ)先生の著作に魅了され傾倒してきました。以前にもご紹介しました先生の著作「高松塚被葬者考」は今も変わらぬ私の愛読書の一冊、すなはち私の古代史への指標、バイブルともいうべき一冊であり続けています。

 私は東京のコロナ禍で集団の講座ができなくなり、調べたいこともあり、三年前から奈良に移住しました。以前から好きな場所でもあり、それまで年に二、三回は訪問、滞在してました。コロナ禍をきっかけに住んでみましたら、ますます奈良が好きになりました。のんびりできますし、知り合うみなさんは良い方々ばかりで、車も少ない上に譲り合い精神がゆき届き、混むのは一部のラッシュアワーのみです。盛り場も大半は夜8時には閉店し、9時には住宅街の電気も消え、町が暗く静かになるということは、深夜まで起きて朝方3時ころに寝ていました東京育ちの私には驚くべきことであり、これはもうきわめて健全な街といえると思います。


薬師寺の朝焼け

 今回は、折角そのような歴史ある街、奈良に住む機会を与えられましたから、まず1年半の550日は毎日美しい薬師寺大池の夜明けの写真を撮影し続け、その個展を開催し終えた今は普通の観光客が訪れない、歴史ある神話のふるさと「大和三山」を巡り、それに関連する遺跡、伝承、歴史、特に飛鳥時代に「大化の改新」の舞台となった板蓋宮、ここは舒明天皇の息子の中大兄皇子が絶大な権力を持つ蘇我入鹿を殺害した乙巳の変(645) の舞台として史上有名な場所です。藤原京、平城京の歴史の表舞台と裏舞台を探訪、写真撮影にも更なるチャレンジをしてみたいと思います。


蘇我入鹿の首塚とされる五輪塔(後ろは甘樫の丘)

 最初に登場すべき山は、やはり「天香久山(あまのかぐやま)」でしょう。名前に「天」とつくところが着目点で、天とつくのは「天の川」とか「天照大御神」、「天岩戸」、「天香久山」などです。よく考えますと、天香久山にはこれら全てが実際に存在するのです。


古代エジプトの墓壁面に描かれた「星」

平安時代の渥美骨壺に護符として描かれた「大」(星の護符)これもエジプトの影響である。

 「天」という字には「人」という字の真ん中に一を加えて「大」とし、人が手を広げ、足を左右に開き最大の物理的な大きさも示すと同時に人間の精神性も含めた大きさを表しています。「大」はこのままですと、エジプト古代王朝では星の輝きである☆を意味した象形文字であり、まさに大宇宙と星々を意味します。ファラオの遺体、すなはちミイラを納めた玄室、観光客のほとんどは天井を見ませんが、まさにその玄室の天井全面にこの「大」がびっしり数えられないくらいたくさん描かれています。ツタンカーメン王の玄室の天井も同様です。それは古代エジプト社会の支配者、特権階級であるファラオや貴族は自分の死んだあと、神秘に満ちた大宇宙やその無数に煌めく星々に守って欲しい、更に復活、再生を遂げたいという願いを持っていました。その願望の表れが星の天井だと思います。高松塚古墳やキトラ古墳の天井にも高句麗系古墳の伝統である「宿星図」が描かれ、天子のシンボルとしての不動の星、北極星が描かれます。しかし不思議なことに「高松塚古墳」の北極星は傷つけられて、消されています。さらに遺骨、歯が散乱し、頭骨がありません。その謎解きは次回に書いてみたいと思います。


天香久山山頂に鎮座する右が天地開闢(かいびゃく)の神「國常立神社」(くにとこたちじんじゃ)と左が水の神「龍神社」、すなはちここが神話の世界での天地の始まりとされる、天香久山で最も神聖な場所。

 さらにそうした大の字の上に一を加え「天」というもうこれ以上、位の高い文字は無いという最高の文字を創造しました。「天」という字には、我々人間はおろか大自然たる宇宙を超え、すべてを超越した古代の神々の世界「神話」により考えられた「偉大なる大宇宙」を統べる「摂理」、すなはち大自然、大宇宙を動かす全ての根源という、壮大な宇宙観・哲学が背後にあります。その「天」の 香ぐわしい山、それはこの地球上で最も理想の中心であり、最も高貴な山という意味になります。この天香久山の麓には「月の誕生石」という巨大な三つの石があり、近くには「竜つなぎ石」があります。天香久山と月といえば「かぐや姫」伝説を想います。「かぐや姫」は平安前期の成立と考えられてますが、そのルーツは月との関係からこの「天香久山」ではないかと思います。では「天香久山」とは具体的にどのような山なのでしょうか⁉️次回その解明にチャレンジしてみましょう。


月の誕生石

試論(1)終わり、次回に続く。

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