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旅・つれづれなるままに

細矢 隆男

第9回 奈良 薬師寺東西塔と大池


大池から見た薬師寺東西塔と朝焼け

 奈良に移住して5ヶ月が経ちました。その間多くの方々との新しい出会いや新しい見処、自分にとっての新しい世界ができてきました。その一つに小学生の時から親しんだ写真との再会がありました。

 今年の4月初めに、奈良での桜の名所である佐保川沿いや大和郡山城を観て歩きました。


郡山城と近鉄特急

 郡山城は12世紀の創建と古く、その後も筒井順慶や豊臣秀長、増田氏、水野氏、柳沢氏と名のある大名たちが歴代城主に名を連ねる名城です。また奈良の桜を代表する名所でもあります。

 少し歩き疲れて、喫茶店で小休止しましたが、そのすぐ側で写真展が開催されていて、何気なく入りましたら、普通の写真展とは違い、かなりのハイレベルの皆さんの展示で驚きました。見せていただいてるうちに、子供のころから親しんだ「写真」がよみがえりました。受付に会員募集要項があり、いただいて帰りました。その要項の中に「デジタル写真講座」や「撮影初歩講座」があると書いてあり、これは面白そうだと思いました。私が撮影していた頃はフィルムカメラ全盛時代でしたから、デジタル写真についての知識は皆無に等しく、見よう見まねでカメラはSONYの古いものが1台あるだけで、大半は携帯写真を使い、本連載の写真を撮る程度でした。これは更なる勉強への絶好のチャンスと思い、入会し古いSONYのデジタルカメラを出してきました。


私の古いデジタルカメラ

 毎月一回の例会に参加し、5月から半年ほどのデジタル写真講座を受講し始めました。毎回未知の世界を勉強しますから、復習は欠かせません。さて、SONYのカメラで何を撮影するか考えました。その時、昔見た池を隔てた薬師寺の塔の写真を思いだし、調べました。そこで今回の「大池」が分かったのです。早速日の出を撮影しようと意気込んで朝早く、忘れもしない6月20日午前3時に車で薬師寺大池に向かいました。古い三脚に古いSONYデジタルカメラを固定して日の出を待ちました。すると何人かが集まり、急に賑やかになりました。もう何年もここに通っている常連さんたちでビックリしました。その朝は偶然にも何年に一度といわれる素晴らしい朝焼けで、皆さんも急に静かになり、代わりにシャッターが切れる音が続きました。私もあまりの美しさに呆然自失の状態でしたが、古いSONYのデジタルカメラのシャッターを押し続けました。その時の最初の記念すべき赤い朝焼けの写真が本連載の冒頭の写真です。


黄金色の美しい朝陽と薬師寺東西塔

 この写真同好会、三の丸写真同好会(吉田徹会長・田付潤之朗(たづけじゅんしろう)講師)の良いのは、毎回皆さんの撮影した作品を数枚持ちより、名前を伏せて壁に張り、皆さんが自分以外のいいと思う作品4点を用紙に書いて提出します。その後誰の作品が一番皆さんに選ばれたかが順次発表され、講師の先生の講評と撮影者のコメントが話されます。

 私は最初の朝焼けのインパクトが強すぎて、完全に魅了され、毎朝通うことにしました。それ以外に当面の写真課題は見当たりませんから、この朝焼けに決めました。今でも強い雨以外はずっと通っています。少しの雨は止むと美しい日の出の可能性があるので、出かけます。日の出がなくても、奈良の朝は空気が澄んでいて、美しく、私は日の出前の30分が一番好きです。曇りの時の塔のシルエットも素晴らしく、いつも見とれています。おかげで、お坊さんより早起きの生活スタイルになりつつあります。


シルエットの東西塔

 この写真に見えます薬師寺三重塔の特に右側の東塔の歴史は古く、天武天皇により西暦680年(天武9年)に創建されました。薬師寺の大半はその後の戦火で焼失、以来東塔だけが創建の面影を残し、今年で1341年という歳月が経過しています。古美術と歴史好きな私にはこたえられません。飛鳥藤原京から平城京への遷都、また幾度かの火災や戦禍に遭い、西の塔は享禄(1528年)の兵火で焼失、453年後の昭和56年(1981年)当時の色彩で再建されました。


海龍王寺の五重塔

 現在確認できる日本最古の塔は藤原不比等の旧宅とされる海龍王寺の小型五重塔(401cm)であり、それは天平前期の姿を残した、現存する唯一のオリジナル「五重塔」とされています。その姿は小ささを感じさせない美しさを持ち、未だに凛と堂内に聳えています。私はその美しさよりさらに古い美を「東塔」に観たいと思います。ちなみに法隆寺五重塔はこれまで日本最古とされてきましたが、一番古い若草伽藍は焼失し、金堂が最古で、それも668年再建とされ、さらに五重塔を含めた法隆寺西院伽藍の整備は持統天皇以後と考えられます。薬師寺東塔は三重塔としては日本最古は間違いありませんし、塔そのものを考えても日本最古の可能性すら残ります。


雄大な朝陽

 万葉集に歌われた西ノ京の勝間田池(現・大池)から観た、その薬師寺の塔が朝陽に浮かび上がる美しさは古来有名で、自然は日々刻々と変化しますが、私は四季のその美をすべて見てみたいと思っています。

 大自然の神秘性と、一瞬たりとも同じ変化の無いという潔さ、雄大さ、荘厳さに心うたれました。創建以来1341年間、厳しい大自然の変化に立ち向かってきた東塔の雄々しさ、美しさとそれを建てた白鳳時代人への畏敬の念が私をそこに通わせています。その熱意が通じたか、7月の例会に出した二枚の私の写真が一席、二席をいただき、大いに面目をほどこしました。

 大自然の移り行く美しさを通して、奈良時代から変わらぬ池と塔の美しさを是非お出かけいただき、楽しんでいただければと思います。


薬師寺南門からみた東西塔

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