愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

旅・つれづれなるままに

細矢 隆男

第4回 山形県・肘折温泉


月山から流れる銅山川の美しい肘折(ひじおり)温泉郷の景色

 みなさん、こんにちは。コロナ禍はなかなか収まらないようで、増えたり減ったりを繰り返してますね。
 コロナ新型ウイルスは熱に弱いとも言われます。体温を上げる工夫も試みる価値はあります。免疫力を高めるビタミンDや生姜は体温を上げるとともに、抗ウイルスの効果も期待されています。また少し高めの温度での入浴、温泉も効果があるといわれます。

 私は若いときから温泉が好きで、特に熱い湯を好み44~45℃くらいの蔵王の青根温泉にしばしば行きました。いずれ本稿でとりあげますが、夏は青森県下北半島の恐山温泉が最高です。共に熱い湯です。私は平常でも46℃~47℃の湯に3分朝晩入ります。おかげで熱い湯で有名な草津温泉にも入れます。いきなり熱い湯に入れば、体がびっくりして心臓に負担がかかり健康に良くないでしょうが、私の場合は長期にわたり馴れて来たみたいで問題ありません。おかげで長年風邪もひかず体調もすこぶる良いです。体質にもよるのでしょうが、知り合いに私の未体験ゾーンの48℃の湯に入る山伏がいますから、そのあたりまで大丈夫のようです。


佐藤巳之助の古作・肘折こけし

こけし製作中の鈴木征一工人

 もう何十年も前のことですが、月山からの旅の帰りに今回の肘折温泉に寄りました。その後、「こけしの研究」をしていた時に、古い肘折こけしは大好きなこけしでしたので、車で東北のこけし作家を回った折りに、現在ただ1人伝統を引き継ぐ鈴木征一工人を訪ねましたし、所属していた日本山岳修験学会が山形県山寺立石寺で行われた折りも、遠回りではありましたが、この肘折温泉まで車で行き、一夜の宿としました。ここは決して豪華な温泉街とはいえませんが、私にはとても落ち着く温泉宿があります。


肘折温泉郷

 もうかれこれ「肘折温泉」とのお付き合いは40年くらいになりましょうか、私は偶然「西本屋旅館」に予約して出かけました。旅の行程から少々遅くなるので電話を入れて最終バスでなんとか着きましたら、なんとご主人がバス停まで迎えにきてくれていました。荷物も持っていただき感激しました。宿は私の好きな昔風の古い温泉宿です。夕飯も遅く着いたにもかかわらず暖かい味噌汁にごはん、焼魚を出していただき、おいしくいただきました。それもなんと部屋でゆっくり食事できたのです。いいなぁ、昔の、古き良き日本の旅館。人情がそのまま生きています。往々に見られる近代的な大ホテルや高級旅館のうわべだけの心のこもらないサービスとは全く逆を行く、素朴な「人情温泉宿」といえます。


真ん中の茶色の看板があるのが西本屋温泉旅館

美しい山河風景

 この温泉郷の楽しさは、温泉はもちろんですが月山を背景とした風光明媚な山水の景色と「朝市」でしょうか。温泉の目抜通りに4月下旬から11月下旬まで、早朝5時30分~6時00分に始まり、宿泊客や地元住人に愛され、楽しまれています。採れたて野菜や果物、漬物、特産品などを安く販売しています。まさにバス道路幅スレスレに露店を出して、バスが通るたびに観光客をハラハラさせる、まさに地元風物誌となっています。また「西本屋旅館」の前には町の共同浴場もあり、違った風情の湯を楽しめます。出たら横に薬師堂である「湯坐神社」があり、散歩にお参りできます。人は生きていると様々な苦しみ、辛さ、病気に悩まされますが、薬師如来はそうした現世の様々な苦しみから救ってくださる古代からの霊験ある重要な仏様なのです。湯治が様々な病気を治すことから温泉と結びついた信仰です。


薬師堂「湯坐神社」参道

朝市の様子

 朝市の美味しそうな、つきたてのお餅につい財布の紐がゆるみます。
 もちろん温泉宿ですから、温泉が人気第一で、西本屋旅館は別名「金魚の湯」といい、温泉に入りながら金魚を観賞できます。湯船の横の壁に水槽が据え付けられて、温泉の湯から適度の温度を供給されて、一年中適温で金魚たちが心地よくすごせるようにセットされています。温泉に入りながら飽きずにいろいろな種類の赤いかわいい金魚たちが泳ぎ回る光景を楽しめます。今までこんなにゆっくり金魚たちの泳ぎを見たことありませんでした。


金魚の見える温泉

 ご主人は純朴にして真摯な方で、あまりおもねるサービスは上手とはいえない雰囲気をお持ちですが、私はそんなご主人が好きです。風土と人情、人柄は一体であるとよくいわれますが、東北地方はまさにそうだと思います。学生時代に、厳冬期の東北を最初に旅した折りに、十和田のユースホステルに宿泊しましたが、ものすごい寒さの上にここの夜具のお粗末さに驚きました。暖房もない部屋で毛布二枚だけで、仕方なく服を着たまま寝ましたが朝に部屋に置いた登山靴がカチンカチンに凍りつき、ロビーの石油ストーブで暖めて履くのに閉口しました。そのシベリア抑留を思わせるような一夜で風邪を引いて、それが青森県尻内で悪化して宿のおばさんに話したらすぐに布団を敷いてくれて、毛布に掛け布団を四枚くらい掛けられて重くて、うなされた経験をしましたが、しかしその布団の重さに東北人の親切さ、まさに人情の重みをとても感じ、ありがたいなぁと思いました。

 また機会があれば何度でも東北を旅したいし、肘折温泉の「西本屋旅館」に二泊くらい宿泊し、昼に下記の「名店」を心行くまで楽しみたいと思っています。

●肘折温泉アクセス
奥羽本線「新庄駅」からバス。終点肘折温泉下車、徒歩1分。本数が少ないので、最終バス時刻に注意。

●名物
派手さのない肘折温泉のうまいもの「名店」が二軒あります。温泉街を歩いて探して見るのも楽しみ。都会では味わえない人情を感じます。

▼柿崎もち店
先に述べた朝市などでも「餅」はおすすめですが、防腐剤の入らない餅は先の予定のある旅では買いにくいもの。そこで、この「柿崎もち店」でできたての「納豆もち」「きのこもち」「あんころもち」「くるみもち」など地元の安くて素朴でおいしい、田舎のおかあさんの味を楽しんでください。昼のラーメン各種もあり、暖まります。昼ビールに茄子の浅漬けなど最高ですね。

▼羽賀だんご店
肘折ダム手前にある店。だんごと餅の専門店。宿泊先の部屋まで届けてくれるサービスもあるとか。だんごは四種類で、あんこ、しょうゆ、ゴマ、ずんだ。しょうゆは香ばしく、ずんだは東北らしい優しさのある、ふるさとの味。お昼ごはんの代わりに、上二店のだんごに餅を心行くまで賞味したい。

※骨董連載へアクセス


旅・つれづれなるままに
このページの一番上へ