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掌(てのひら)の骨董

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

掌の骨董88.唐三彩について1(2回連載の1回目)


唐三彩小盃

 唐三彩は中国古代作品の中でも極めて重要な多彩釉の作品であるとともに、価値がたかまるにつれて値段も上がり、したがって贋作が大変多く、寄贈品を受ける博物館でも贋作が入り込むことがあるほどです。そうしたことから2回に分けて詳細に鑑定方法などを書いてみたいと思います。

 桜のシーズンも終わり、奈良では初夏の風が心地よく吹き渡り、気持ちの良い季節です。
「あおによし ならのみやこは さくはなの におふがごとく いまさかりなり」と小野老が太宰府にて都を想い歌った有名な歌ですが、その歌のように奈良はいま最高の季節を迎えています。


奈良の代表的公園の馬見丘陵公園の菜の花畑

 この頃は中国の西安も柳に春風が心地よく吹き始めますが、中国の場合はシルクロードを中心としたタクラマカン砂漠などでは季節風により「黄砂」が飛び、防塵マスクが必要なくらいな時があります。

 言うまでもなく、奈良は中国の古都長安をモデルに都市計画を立てたといわれ、その長安が名を変えた現在の都市、西安と姉妹都市になっています。

 飛鳥時代から奈良時代には、聖徳太子に始まり聖武天皇などが盛んに遣隋使、遣唐使船を派遣して、さまざまな分野の知識を学ばせました。現在の平城京跡の県道1号線沿いにはその折の遣唐使船が復元されていますから興味ある方は乗船体験できますので乗ってみてください。以前「旅」の連載に取り上げましたから、まずそちらをお読みいただければと思います。

 さて大唐帝国の都、長安は昔から経済、軍事、文化の中心地、要衝として栄えてきました。私も若い頃にシルクロードに関係する東西交流史を勉強した後に何度か訪れて西域への旅の拠点にいたしました。西安でガイドを雇い、そこから敦煌に飛行機で飛び、更に夜行列車でウルムチ、トルファン、クチャなどに向かいました。


奈良の中心 朝もやの「東大寺大仏殿」

 現在の中国はかつての仏教は衰退しています。そのような宗教事情もあり、西安にはイスラム大寺院が点在し、そうした寺院の近くには骨董街もあり、昔はまだ規制も緩く、西安周辺の古墳出土の美術品がかなり安く買えました。昔の中国人たちは保存状態の良いきらびやかで、きれいな作品を好む傾向があったようで、墓である古墳の出土品などで、古びた暗い作品はあまり好まなかったようですから、渋い控え目な作品に対しては興味もなく、まして汚いとは思っても、美しいなどとは思わぬ傾向を持った人びとであったように思います。


唐三彩(藍彩)の副葬品としての沓(くつ)
長さ14.5センチ

 使われた、古色の美、時間がつくる劣化の美である侘び寂び文化はやはり日本独自であり、中国人には使い込んだ美や時間が作り出した美を嫌う歴史があったように思います。日本の古美術はまさに大陸すなわちヨーロッパから中国にいたる地域の好みとは様々な点で正反対の嗜好があります。美術もまさにその一つです。またそれにつきましては次回で大陸文化を再考してみたいと思います。


唐三彩盃

 その40年以上昔に買ったものの一つに、唐三彩の盃があります。日本骨董学院の講座では「本物」と「偽物」の違いを比較して勉強しますが、その折に使っています。高さ3センチ、幅5センチというかわいい盃で、まさに「掌の骨董」にふさわしい小品ですが、なかなかの名品で、小さいながらも風格を備えています。


小盃を上から見たところ。真ん中に白く反射している「銀化」が見られる。

 銀化とは時が作り出した変化の美の一つで、古いガラスや鉛ガラス系統の釉薬は時代と砂漠などの厳しい太陽熱によりガラスが変化しまして、ミクロン単位に層を成して変化します。その薄い層に空気が入り込み、乱反射して七色に光るように見えます。これを「虹彩(こうさい)」といいます。


古代ペルシャ陶器にみる「虹彩」

 それが第一段階で、更に進行しますと銀色になり、そして更にまた進行しますと美しい金色になります。そして消滅してゆきます。すなわちこの過程を正確に観ることができましたら、贋作は確実に排除できます。贋作の大半は現代に作られた物が多いからです。現代の技術では本物は、できません。


漢時代の綠釉鉢

 次回勉強します「貫入(かんにゅう)」と「時代の製作方法」を学べば鬼に金棒です。やきものの釉薬の歴史は私の知る限りではエジプト文明からです。ガラスは地球創成期から自然の中にあり、それが人工的に工夫されやきものに応用されていきました。中国では漢時代に鉄釉や銅による緑色の鉛釉薬が開発されたようです。それが今回の「唐三彩」のルーツといえます。


唐三彩盃

1回目終わり

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