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掌(てのひら)の骨董

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

掌の骨董60. 李朝白磁六角高台杯

 新年おめでとうございます。本年が皆さまにとりまして、より良い年でありますよう、お祈りいたします。

 令和という年号にとりましても、初めてのお正月になります。その記念すべき、おめでたいお正月にふさわしい骨董品は何かと考えた末に決めたのが、今回の「李朝白磁六角高台盃」です。新年おめでとうというときに、やはり手にするのは盃でしょう。特に骨董マニアはそうありたいです。

 数ある盃の中で、好きな盃は以前この「掌の骨董」に掲載しました「紅志野六角盃」と「元時代の鈞窯盃」、「黄瀬戸六角盃」、「初代徳田八十吉作・色絵鳥文盃」、「唐時代・金銅唐草文高杯」等が特に好きな作品です。


左から紅志野六角杯、黄瀬戸六角杯、
初代徳田八十吉作・色絵鳥文杯、元時代鈞窯紫紅斑杯、
今回の李朝白磁六角高台杯

 今回はこうした数ある盃の中から、まだ取り上げてない盃をご紹介したいと思います。今年はこの盃で、新年を祝います。

 私は李朝の白磁が大好きです。特に官窯の作品に魅力を感じます。韓国は好きな国の一つですが、残念なことに一部の政治家のために関係が悪化してますが、私の知り合いの韓国人の皆さんはすごく親しく、素晴らしい方々です。好物のズンドウフチゲ鍋の朝ごはんの定食屋さんのおじさんや、懇意の骨董店の通称「社長」のおやじさん、学者ともいうべき研究者の李朝家具を扱う品格あるおじさん、東大門奥の骨董店のパンチパーマの庶民的な「オバチャン」、みなさん魅力的で、愛らしい方々ばかりです。早く平安な昔の穏やかな韓国に戻って欲しいです。


今回の白磁六角高台

 今回の李朝白磁六角高台盃は17世紀広州官窯の金沙里窯や松亭里あたりのおめでたい作品です。上がりが良い白磁で、かつて金沙里窯跡で拾った六角高台と同じ上がりですから、間違いないです。昔の金沙里窯跡は遠くから見ると白磁の陶片があたりを埋め尽くして真っ白な雪原を見るごときでした。いまはトマト畑になり、雰囲気は変わりました。見事な白味は一時代前の「道馬里窯」と共通し、さらにわずかな青味がかかってます。美しい金沙里窯の見事な盃です。先ほど、おめでたい作品と申しましたのは、この作品が六角高台の形状を持っているからです。六角は亀の甲羅の形状であり「鶴は千年、亀は万年」という長寿を意味します。


鶴亀

 紅志野六角杯、黄瀬戸六角杯もみな同じ、器に込められたおめでたい長寿を願った形状なのです。


ヤンバン

 この盃の出所はヤンバン(李朝の貴族階級)の末裔の家から出たそうで、さすがに高貴な雰囲気をたたえています。白をけがれない色とした儒教、朱子学を奉じたヤンバン階級は白い着物に身を包み、白磁を食器に使用し、白にこだわりました。李朝の作品には粉青沙器と白磁の二種類があり、日本人には古来、お茶人に粉青沙器が愛され高額に取引されて来ましたが、こうして出来のよい金沙里窯の白磁をじっくり観ていると、白にも侘び寂びとは違った気品ある暖かみが感じられ、更なる魅力を感じます。厚さもあり、温めた器での熱燗の酒は、冷めずにうまいに決まってます。今年も良い年でありますように、と願わずにはいられません。


左・今回の白磁杯と李朝白磁の最初期の作品を
少量焼いた鶏龍山の貴重な白磁徳利
掌(てのひら)の骨董
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