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掌(てのひら)の骨董

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

掌の骨董86.伊万里呉須絵双龍二重花唐草文角丸小皿(江戸・元禄時代)


掌の伊万里小皿

 今回はこれまで草創期伊万里磁器や初期伊万里について詳しく書いて来ました。その磁器の延長線上に今回の完成された素晴らしい小皿があります。

 この長い名称の付け方には厳密な決まりはありませんが、江戸時代以前なら「古」を最初に付けます。伊万里は江戸時代から始まりますから、古は付けません。古伊万里という呼び方は外人が江戸の伊万里作品をすべて「Old Imari」と呼んだのでそれを直訳したにすぎません。

 今回の「伊万里呉須絵双龍二重花唐草文角丸小皿」でしたら、まず産地の伊万里、次に色絵、呉須、白磁などの絵の特徴を、そして絵のテーマ、今回なら龍と花唐草です。更に形を表現します。八角皿とか今回のように、角が丸い角丸の小皿というように名前を付けるのが一般的です。

 これまで簡単に「藍柿右衛門龍花唐草文小皿」ともいわれてきました。最近は柿右衛門だけが伊万里ではなく、伊万里全体が磁器の歴史を築き上げて来たことから、伊万里と総称するケースが多くなりました。


唐草の拡大写真

 唐草の歴史は古く、エジプト文明、ギリシャ文明に遡りますが、日本で最初に使われたのは「法隆寺・金堂釈迦三尊像」の光背でした。以後唐草文様はたくさん使われ、あたかも唐草の風呂敷のように、日本独自の文様と思われ勝ちになりましたが、そうではなく古代オリエントに起源を持ちます。それが法隆寺に使われたことから仏教に唐草、蓮が多用されるようになりました。唐草文様については連載の35回54回80回83回目に詳しく書いてますから、お読みください。


阿吽の拡大写真

 私はこの小皿が昔から好きで、大切にしてきました。その理由は、非常に緻密な絵が入っていること、二重唐草という最高クラスの丁寧な絵が入っていること、さらに双龍が阿吽の口で描かれていること、片方は口を開き「あ」という、あいうえおの最初の文字を表す阿行、もう片方は「ん」最後の吽行をあらわし、二頭であ~んまでで全ての世界を包括していることを表します。また小さい龍の顔がかわいいのが特徴です。外国で伊万里が愛された理由でしょうね。私もかわいい龍の顔が大好きです。


代表的な唐草文様

 次に二重花唐草文様です。写真に挙げますのは元禄の唐草文様ですが、この渦の描き方が元禄のころの描き方です。真ん中の五弁花はアクセントになりますが、少し前の延宝時代の作品にはこの五弁花は入りません。後にデンマークのロイヤルコペンハーゲンという王立陶芸研究所が模倣してます。このロイヤルコペンハーゲンは日本人に大変人気がありましたが、元々日本の伊万里の唐草文様を模倣したものですから、ロイヤルコペンハーゲンのほうが、なぜ日本人が買うのか、さぞかし驚いたでしょうね。日本の芸術の模倣からできたガレのガラス作品を日本人が好きなのと同じです。日本人はあまりにも自国文化を知らな過ぎます。


ニセモノの伊万里皿(元禄時代の皿を真似した現代作品)

 この作品の悪い点
①呉須が薄い。
②口紅が薄い。良ければチョコレート色している。
③裏の渦福銘が下手。
④ピンの位置がおかしい。真ん中に打つが、かなり外れている。焼いていて、底が落ちてくるのを防ぐピンだから、真ん中に打たねばいけない。以上の点から贋作です。

 さて一般的には一筆描きの唐草文ですが、このような小さな皿にかくも丁寧に二重に描いてる皿は観たことありません。これはさすがに外人には真似できません。龍も見事で、私はこの描き手と同じ作者が描いたと思われる輸出用の龍作品を持っています。


伊万里輸出用色絵鳳凰龍文中皿(江戸・元禄時代)

 この小皿の最大の希少性は皿の裏側の「福」字にあります。我々の間では、車輪福と言われ、この銘が入る作品は名品が多いといわれます。確かに作者の意気込みが感じられます。銘の書き方も丁寧であり、品格が感じられます。車の車輪、タイヤのスポークのような福の田部分で、丸に1画多い田となります。これは是非頭に入れておいてください。こうした車輪福を見つけたら、触って仕上げが良いか、つるつるしてること、絵が丁寧で二重唐草文様かどうか、口紅であることも含め、よく観察して納得がいったら、値段折衝してください。
 この元禄時代の初期作品はなかなか良い作品が多く、伊万里作品が現在値を下げてますから、狙い目といえます。


車輪福の銘 非常に丁寧に書かれてます。

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