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掌(てのひら)の骨董

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

掌の骨董112. 唐津(Ⅱ)・山瀬窯の斑唐津


山瀬窯の斑唐津

 前回は桃山時代・絵唐津筒茶碗について勉強しました。一般的に古唐津窯の窯跡は230以上あるとされ、その土味も多種あり、なかなか特定は難しいものです。昔、地元の業者さんに依頼して、唐津各窯のハッキリした窯名のラベルの付いた陶片を集めてもらい、80箇所ほど集まりましたが、まだまだでした。詳細に土と釉薬、目積方法、鉄絵と長石釉の感じなどを比較研究しましたが、あまり細かく分析しても基本は李朝陶工による伝統技術であるわけで、残りの資料収集は断念しました。まあ大きく分けて酸化、還元の変化もありますからオレンジから茶色系と信楽のガイロメ風粘土の長石を取り去った細かい味わいのある「山瀬窯作品」に分けて勉強するだけで良いのではと判断するようになりました。


赤楽茶碗(了入作)

 かつては「一楽 二萩 三唐津」とその古陶磁器の人気をうたわれた唐津ですが、今や萩に代わる人気上昇ぶりです。

 またこういう言葉もあります。「日本人は信楽と李朝で死ねる」、まあこの場合の日本人とは骨董マニアの日本人という意味でしょうが、死ねるというのは「心から満足する」、「惚れ込む」という意味でしょう。信楽のこの場合は室町期の作品のひなびた雰囲気のある壺類をいうのでしょうか。あの「肌合い」はえもいわれぬ枯れた荒れ野の雰囲気を出していて、薄いグリーンの自然釉もその肌に合い、花を活けずとも壺そのものだけで、「侘び寂び」の風情を醸し出してくれます。李朝で死ねるという人は唐津でも死ねます。唐津は李朝に同じ源流、ルーツを持つからです。特に鉄釉に斑釉が流れる「朝鮮唐津」の微かなコバルトブルーの美しさ、自然さを詳細に観察しますと、その美しさに打ちのめされます。もうこの「美」には脱帽するしかありません。本物にしかない「美」です。ルーペでお楽しみください。


鉄釉と斑釉の混ざり具合の美しさに息をのむ。ルーペで楽しんでほしい。

 贋作にはこの美しさはありません。やはり美しさを感じさせない「美術品」は、買ってはいけません。


李朝鶏龍山刷毛目鉄絵掻落徳利

 唐津の鑑定は高台周りの土見せと山瀬窯斑(まだら)釉薬に見所があります。山瀬窯作品は貴重で、今や窯跡からの陶片採取も難しくなり、数も少なくなり、継ぎはぎだらけの山瀬杯が高額で売られるほど貴重になりました。

一般的な見所、ポイントは
①三日月高台
②竹節高台
③ちりめん皺


①②③の特徴

④カリカリ、チリチリに固く焼けた土
⑤兜巾(ときん)
⑥胴と腰の削り(李朝と同じ)


④⑤⑥の特徴

⑦斑釉の流れ方の変化
⑧山瀬窯の土味と焼きの柔らかさ。


山瀬作品の高台。稲妻のような土の亀裂、これこそ山瀬窯作品の特徴

⑨山瀬窯まだら釉の独特のカセ


山瀬窯斑釉のカセ

⑩胎土目積の跡
⑪鉄絵の古びた感じ

などが鑑定ポイントになります。


山瀬窯作品に観る「貫入」

 まあ一般的にすべての特徴がこれ見よがしに現れてる場合は注意せよといわれます。さりげない感じで特徴がある場合は合格です。鉄絵が濃い場合も「後絵」の可能性があります。

 私は斑唐津作品で、斑釉の中の独特なブルーと白、土の色合いの複雑に混ざり合った変化の妙の美が大好きです。ルーペでも肉眼でも観ていて飽きません。感動しない、美しく感じないものは、買わない方がよろしい。

 東京の出光美術館には唐津コレクションの名品がたくさん所蔵されていますから、機会がありましたら、それら名品をご覧になり、味わっていただくのがベストではないかと思われます。

 美術品、とりわけ古美術品は実物を観ることが大切です。できれは手に取り詳細に観察できればよいのですが、博物館、美術館では難しいでしょうが、東京有楽町の出光美術館の陶磁器資料室にはたくさんの陶片が収蔵されていて、大変勉強になります。また、古美術商の方や露天の骨董商で好意的な方から所蔵品を見せていただくなどして、作品と接する時間を出来るだけ持てるとよいでしょう。


山瀬窯の美しい微かなオレンジ色の土焼けと斑釉の白と透明感の美しさ。

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