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知って得する鉄道旅行術

鉄道ライター/安城学園高校教諭
山盛 洋介

異色の鉄道に乗る(1) ~黒部峡谷鉄道の旅~

狭いようで広い日本。JR・私鉄・公営鉄道などをすべて合わせて27000km以上の鉄道網が張り巡らされています。その中には、通勤電車が頻発し ている路線もあれば、1日に数本しか列車が走らない閑散路線もあり、さまざまですが、少し趣の変わった鉄道もあります。そんな鉄道の旅をご紹介したいと思 います。

今回ご紹介するのは、富山県を走る黒部峡谷鉄道です。富山地方鉄道の宇奈月温泉駅で降りて少し歩くと、黒部峡谷鉄道の宇奈月駅があります。ここが始発です。

もとは黒部ダムの建設資材を運搬するために敷かれた鉄道で、1936年に宇奈月~欅平間が全通しました。本来は貨物専用であったのですが、登山客や 観光客から乗車したいという希望が多く、便宜的に旅客の乗車を認めていました(今では考えられないようなことですね)。きっぷの注意書きに「ただし生命の 保証はしない」という文言があったといいます。その後、1953年に正式な旅客営業が始まりました。

約20kmの路線ですが、1時間10~20分をかけてゆっくり走ります。これは、軌間(レールの幅)が762mmという特殊狭軌鉄道で、速度が出せないことと、地形が急峻で注意深く走らなくてはならないことが理由です。

宇奈月駅で発車を待つ黒部峡谷鉄道の列車

列車は、窓がないオープンタイプの車両や、天井に窓があるパノラマ客車などさまざまな種類の客車が連結され、予算に応じて乗車することができます。黒部川の峡谷に沿った断崖を走っていくため、トンネルや鉄橋を通り、絶景を眺めながらの旅となります。

この黒部峡谷鉄道が一風変わっているのは、旅客が利用できない駅があるということです。宇奈月から欅平までの間に10駅がありますが、このうち旅客 が乗降できるのは宇奈月・黒薙・鐘釣・欅平の4駅のみで、その他は、関西電力関係者の専用駅となっています。現在でも、沿線にあるダムや発電所の専用鉄道 としての役割があり、関電専用列車も多数運転されているなど、昔と同様「旅客はおまけで乗せてもらっている」感覚になりそうです。

オープンタイプの車両では沿線の風景と間近で接することができる

沿線には温泉もあります。黒薙温泉、鐘釣温泉、欅平温泉、名剣温泉、祖母谷温泉などのいで湯が散在しており、日帰り入浴が可能なところも多いです が、日程の都合が許すのであれば、ぜひこの山奥で1泊してみたいものです。下界の便利さはないかもしれませんが、その分、有り余るほどの大自然と向き合い ながらの一夜。心の洗濯ができるのは、このようなときなのかもしれません。

もっとも、火山帯であるこの地域に温泉が多いのは当然のことで、黒部峡谷鉄道も含め、黒部川の電源開発は、常に高熱と湧水との闘いの連続であり、多 くの犠牲を生んだものでした。それを温泉の恵みとして授かることができる旅人は気楽といえば気楽ですが、心のどこかにそのことを留めておきたいものです。

人を寄せ付けない黒部峡谷の風景

断崖にへばりつくような欅平駅

<旅のヒント>

愛知県からの日帰りでは旅程が窮屈になるので、富山市内や宇奈月温泉を拠点にして1泊程度でスケジュールを組むと良いでしょう。多客期には満席になる列車も多いので、旅行会社を通じて、また直接予約をするなど、早めに手配されることをおすすめします(公式サイト http://www.kurotetu.co.jp/ を参照/ネット予約は不可)。

なお、近在に立山黒部アルペンルートがありますが、欅平からアルペンルートに直接抜けるのは、登山装備を持ち、泊まりがけで歩かないと不可能です。宇奈月から立山駅へ回ることになります。

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