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知って得する鉄道旅行術

鉄道ライター/安城学園高校教諭
山盛 洋介

第47回 東海地方の第三セクター鉄道を旅する(1)

「第三セクター」という用語が世に登場して久しいですが、鉄道業界でも、旧国鉄時代に赤字を計上した路線を中心に、地元資本で再出発を図ろうと、第三セクター方式での経営に切り替えた路線がいくつも登場しました。もともとが経営状況の思わしくない路線ばかりですから、先行きが楽観視できる路線はほとんどありません。しかし、鉄道の旅ならではのゆったりとした旅情を味わうにはもってこいの路線がたくさんあります。赤字に苦しみながらも、地道に頑張る第三セクター鉄道を応援しに行きませんか。

まず、ご紹介したいのは、岐阜県の明知鉄道です。明知鉄道は、恵那・明智間25.1kmを結ぶ、かつての国鉄明知線を引き継いだ第三セクター鉄道です。
駅の窓口できっぷを所望すると、昔懐かしい硬券(厚紙に印刷してある券)で、パチンと改札鋏を入れられます。機械印刷のきっぷがほとんどになった現在、こういうきっぷはもはや希少価値で、旅情を感じる瞬間でもあります。

恵那で発車を待つ明知行き列車

「ジリリリリリ・・・」とこれまた懐かしい発車ベルに送られて恵那を発車した列車は、さっそく登り勾配に挑みます。エンジンを唸らせて、ゆっくり登っていきます。キャンプにでも行くらしい子どもたちが「何この電車、おっせー」と文句を言っていますが、そんなことは意にも介さず、生真面目に登っていく姿は頼もしい限りです。
東野、飯沼、阿木、飯羽間と小さな駅が続いていきます。駅と駅の間は平坦な区間があまりなく、急な上り下りを幾度も繰り返します。エンジン音高らかに峠を登り切ると、今度は惰性ですぅっと静かに下っていく感じです。そんな様子はどこか人間臭くて親しみを感じてしまいます。

岩村に到着。ここは駅員もいる駅です。途中下車をして、町を歩いてみましょう。岩村は、日本三大山城にも数えられる岩村城を擁する城下町で、駅から10分ほど歩いていくと、古くからの町並みが現れます。旧家が見せる重厚な造りに感心しつつ歩いていると、「岩村醸造」という酒蔵があります。「女城主」という酒で名高い蔵元で、酒造りの様子を見学することもできます。また、蔵の中にはトロッコの線路が敷かれています。かつて、資材や商品の運搬に使ったものだそうで、鉄道好きには気になる物件です。もちろん、試飲も忘れてはいけません。鉄道の旅だからこそ楽しめるひとときでもあります。お気に入りの一品を片手に、駅へ戻りましょう。

岩村駅で途中下車
岩村の町並み

再び車中の人となり、終着の明智をめざします。「明知鉄道」なのに、終着が「明智」とは不思議ですが、開業時には「明知町」だったことから、「国鉄明知線」となり、その後、「明智町」になって駅名だけは「明智」に変更されたものの、線名はそのまま変更されなかったとのこと。これも、駅員さんが教えてくれました。

明智は、日本大正村との別名をとり、あちこちに大正時代の面影を残している町です。尾張と信州を結んだ中馬街道と、三河と中山道を結んだ南北街道の交差するのがこの明智で、往時から交通の要衝として栄えました。旧郵便局(現・逓信資料館)や、旧町役場(現・大正村役場)、旧小学校(現・絵画館)あたりを歩いてみると、カメラを片手にした観光客の姿も多く、観光スポットになっている建物だけでなく、街道沿いの古い建物もいい雰囲気を醸し出しています。

「日本大正村」を歩く

私は大正時代を知る人間ではありませんが、町を歩き、建物に入ってその空気を吸ううち、往時の人々の息づかいが聞こえてくるようです。このようなモダンな建物を生み出したのは、やはり時代の趨勢があったからでしょう。その後、戦争に突入していく暗黒の時代がやってくることを考えると、この大正時代の輝きが、何かを示唆してくれているような気がしてやみません。

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