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知って得する鉄道旅行術

鉄道ライター/安城学園高校教諭
山盛 洋介

寝台列車で旅に出よう

「寝台列車」と聞くだけで、旅情を掻き立てられる方も多いのではないでしょうか。夢を見ている間に遠くの町へ運んでくれる寝台列車は、旅の舞台としても最高の演出をしてくれます。
ところが、ここ数年、急速に寝台列車が削減されており、その感激すら味わえなくなりつつあるのが現実です。

上野駅で発車を待つ寝台特急「北斗星」

現在、定期運行している寝台列車は、「はやぶさ・富士」(東京~熊本・大分)、「なは・あかつき」(京都~熊本・長崎)、「サンライズ出雲・瀬戸」(東京~出雲市・高松)、「日本海1~4号」(大阪~青森)、「北斗星1~4号」(上野~札幌)、「カシオペア」(上野~札幌、隔日運行)、「あけぼの」(上野~青森)、「北陸」(上野~金沢)と、急行「銀河」(東京~大阪)のみ。ただ、「なは・あかつき」と「北斗星」「日本海」の各1往復は、この3月のダイヤ改正で廃止されます。
このうち、愛知県内に停車するのは「はやぶさ・富士」(下り:豊橋・名古屋停車、上り:名古屋停車)と「銀河」(下りのみ:名古屋停車)で、数は少ないながらも、寝台列車の旅を楽しむことができます。

名古屋から「はやぶさ・富士」に乗って、九州へ出かけてみましょう。なぜ2つの愛称があるかというと、本来は別の列車なのですが、東京~門司間は併結されて1本の列車として運行されているためです。経費削減なのでしょうが、こんなところからも寂しさを感じてしまいます。

名古屋駅で見る「大分」の文字に旅情が湧いてくる

名古屋22時47分に4番線を発車。隣の1・2番線や5・6番線は家路を急ぐ帰宅客で賑わっています。そんな空間にやってくるブルーの車体は、そんな帰宅客たちを一瞬、旅の魅惑に誘っているかのようです。
東京から走り続けてきていますので、車内はもう寝静まっている人も多いようです。自分の寝台を見つけて、腰を落ち着けたら、もう眠りに就きたいところですね。時間に余裕があるなら、乗車前に、自宅や銭湯などで入浴を済ませておくといいでしょう。お酒のお好きな方なら、駅前で軽く引っ掛けてからホームに上がるのも一興です。
A寝台個室「シングルデラックス」やB寝台個室「ソロ」なら、プライベートな空間が確保されますが、それ以外の寝台は開放式の2段B寝台ですので、見知らぬ他人と乗り合わせることになりますが、それも旅ならでは。
浴衣に着替え、2段のベッドに寝転がり、毛布に包まれば、ガタンゴトンというレールの継ぎ目を拾う音や、カタカタというポイント通過音も心地よい子守唄になります。いつしか、遠い九州の空を夢見て、深い眠りに落ちることでしょう。

B寝台の2段ベッドは窮屈ながらも思い出に残る"旅の装置"

朝、目が覚めると、瀬戸内の海を眺めながら、マイペースで西進していることでしょう。下関で6分停車(8:32~8:38)して機関車を付け替えます。その間に、ホームに出ている駅弁屋さんから駅弁を買うのも楽しいものです。本州とお別れし、関門トンネルを通過。出口の門司で相棒の「はやぶさ」と別れ、「富士」単独での行路が始まります。門司でもその作業のため24分停車。もうここまでくると、急ぐという概念がなくなってくることでしょう。
小倉から日豊本線に入った列車は、やはりそのペースを崩さず、わずかな乗客を降ろしていきます。途中、杵築で運転停車(客扱いはなし)して、後続の特急「ソニック9号」に道を譲ります。「特急」が「特急」に抜かれる、という奇想天外な光景ですが、「富士」は意に介することもなく、最後までそのスタンスのまま、終点の大分をめざします。列車の窓から見えている景色は「朝」のはずなのに、車内の空気は「昨日」を引きずったままのような、不思議な感覚です。大分到着は11時18分。もう日も高くなったころです。

名古屋を朝一番の「のぞみ」で出れば、先ほど杵築で抜かれた「ソニック9号」に小倉でスイッチしますので、前夜に出発するメリットはほとんどないといえます。こんな「時代遅れ」の列車ですから、乗客が減っているのは当然といえば当然です。しかし、こんなスピード時代の世の中だからこそ、こんな列車に乗りたくなるのかもしれません。

一部報道では、「はやぶさ」「富士」も、早晩廃止になるのではないか、という推測が流れています。時代の流れとはいえ、寂しいものです。ぜひ、早いうちに、乗っておきたい列車かもしれません。

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