愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

知って得する鉄道旅行術

鉄道ライター/安城学園高校教諭
山盛 洋介

第37回 秋こそ信州の旅(2)

 今回も、前回に引き続き、信州のローカル線の旅をご紹介していきます。秋の美しい風景を存分に味わいながら、鉄道の旅を楽しみましょう。

3.上田電鉄別所線

 北陸新幹線の停車駅でもある上田で降り、上田電鉄という小さな私鉄に乗り換えます。上田と別所温泉の間、11.6kmを結ぶ路線で、地元では「別所線」という名で親しまれています。
 千曲川を渡り、上田の市街地を離れると、沿線風景がのどかになってきます。このあたりを塩田平といい、古くから信濃国の政治の中心でありました。また、肥沃な土は多くの恵みを産み出し、旧上田藩は塩田平を穀倉として極めて重要視したといわれています。今でこそ、のどかな田園地帯にしか見えませんが、歴史のエキスが存分に染み込んだ大地であるといえます。
 塩田町で途中下車し、タクシーで10分ほど行くと、「無言館」という美術館があります。ここは、若くして戦没した画学生の遺作や遺品を集めた美術館で、館主の窪島誠一郎氏と、自らも出征し生き残った画家、野見山暁治氏が全国の遺族を訪ね、預かってきたものを展示しているそうです。戦争という「特殊な」時代に生まれた「普通の」彼らが、青春をどう感じ、どう叫んでいたか。それが一枚の絵となって表現されています。言葉に記すより、ぜひ多くの方に、足を運んで見ていただきたい。美術館の外に出ると、塩田平の澄み切った空が見えてきます。これが、画学生たちの無垢な心と重なり合って、胸が痛みます。
 さらに電車に揺られ、山並みにぶつかると、終着の別所温泉です。真田幸村隠しの湯ともいわれるこの温泉には、「信州の鎌倉」とも言われるほど古刹が多く、中でも北向観音は別所温泉のランドマークともなっており、門前町と温泉町の風情が合わさって、独特の雰囲気となっています。並び立つ旅館で一夜を過ごすもよし、地元の人々とともに共同浴場で汗を流すもよし、さまざまな角度から歴史を感じ、考えさせられる信州の旅を温泉で締めくくりましょう。

上田駅で発車を待つ別所線の電車
戦没画学生の作品を展示した「無言館」

4.しなの鉄道

 旧JR信越本線が北陸新幹線開通と引き換えに第三セクター化され、開業したのがしなの鉄道。軽井沢から小諸・上田を経て篠ノ井までの路線です。電車はJRに乗り入れて長野まで直通運転します。
 避暑地として名高い軽井沢は、いくら隣の県とはいえ、愛知県からはなかなか行きにくい地域ですが、豊かな自然に抱かれた高原の町は一度訪れてみたいもの。できることなら一泊して、朝の清々しい空気をお腹一杯味わいたいものです。朝食はベーカリーで焼きたてのパンを、というのもお洒落でいいものです。
 軽井沢を後にしたしなの鉄道の電車は、活火山として今も噴煙を上げる浅間山を右手に眺めながら進みます。秋から冬にかけて、風景がどんどん変化していく地域で、雪を被った山並みをバックに、赤く実った柿の木を眺めていると、どこか落ち着くのは、やはりこの日本に住んでいるからでしょうか。
 小諸あたりからは千曲川沿いに走っていきます。北国街道も並行しており、史跡が多いのもこの沿線の魅力。島崎藤村の「小諸なる古城のほとり」で有名な小諸城址と懐古園は小諸駅のすぐ裏手にあります。真田氏ゆかりの上田城はぜひ寄りたいスポットですし、日帰り温泉「ゆうふるtanaka」のある田中駅で降りれば、歴史的な町並みが続く海野宿も近いです。  旅の締めくくりはやはり温泉。戸倉で下車すれば、戸倉上山田温泉が待ちます。千曲川に沿った温泉街で、浴衣姿で温泉街をそぞろ歩くのもおすすめです。  新幹線開通後も地道に頑張るローカル鉄道に乗って、地域の素顔に触れましょう。

軽井沢で発車を待つしなの鉄道の電車
小諸駅のすぐ近く、懐古園から千曲川を望む
知って得する鉄道旅行術
このページの一番上へ