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知って得する鉄道旅行術

鉄道ライター/安城学園高校教諭
山盛 洋介

車窓から眺める絶景

「列車は動く展覧会だ」と言った人がいます。窓の枠が額縁だと考えると、その中に見える風景は芸術作品だということです。そして、列車が走っていくに従って、次々と作品が変わり、私たちは座席に腰かけているだけで、さまざまな作品を眺めることができるということです。車を運転して出かけるのと違って、運転に気を遣わなくて良い分、私たちはその芸術作品の鑑賞に集中できるのが嬉しいところです。
ここでは、車窓を彩る絶景をいくつか、ご紹介してみたいと思います。

1.JR篠ノ井線(姨捨付近)
特急「しなの」に乗って名古屋から長野まで3時間。その旅路のラストを彩るのが、姨捨付近から眺める善光寺平(長野盆地)の風景です。冠着峠のトンネルをくぐると右側の展望が突如開け、眼下に大パノラマが広がります。
特急「しなの」の車窓からでも充分に堪能できる風景ですが、ぜひここは各駅停車に乗ってみましょう。姨捨駅は急勾配の途中にあるため、ホームが引込線上に設けられたスイッチバック方式になっています。姨捨に停まる列車は、本線から外れて引込線に入り、ホームに停車。そして、バックして引上線に一度入ってから本線に戻るという形です。姨捨駅のホーム自体が展望台のような位置にあり、駅から出なくてもこの風景を味わうことができます。数分停車する列車も多いので、停車時間中に記念写真をパチリ、というのも可能です。この姨捨駅に停まらない列車は、ホームを無視して本線上を下っていきますので、各駅停車ならではの楽しみともいえるでしょう。
私など、松本や長野で駅弁やワインを仕入れて、この姨捨で途中下車し、1本後の列車までの間、風景と味覚を堪能する、なんてことをよくやっています。また、夜景がきれいなスポットでもありますから、デートにもいいかもしれませんね。

姨捨駅からの眺め

2.JR飯田線
東海道線豊橋から、豊川・本長篠・中部天竜・天竜峡・飯田・駒ヶ根・伊那市を経て辰野まで195.7kmを結ぶローカル線が、飯田線です。「偉大なるローカル線」とも呼ばれ、94もの駅があり、全線乗り通すには6時間ほどかかるという路線です。
三河湾に程近い豊橋から、奥三河、北遠、さらには伊那谷へと走っていきますから、沿線で見せる風景は実に多彩で、季節によっても違った素顔を見せます。
湯谷温泉~三河槙原付近で見せる板敷川の渓谷美、大嵐~天竜峡間で深山幽谷の趣を見せる天竜川、さらに伊那盆地に入ると左側に中央アルプス、右側に南アルプスと、2つのアルプスに挟まれる贅沢な眺めが待っています。信州に数ある路線のうち、2つのアルプスを同時に眺められるのは飯田線だけです。
一気に乗っているだけでは疲れてしまいますから、途中下車しながらのスローな旅を楽しむと、沿線の魅力がぐっと身近に感じられることでしょう。

湯谷温泉~三河槇原間 断崖すれすれを走る飯田線の列車
平岡~為栗間で見える天竜川平岡ダム湖の眺め

3.JR参宮線(池の浦シーサイド~鳥羽間)
次は、打って変わって、海の景色です。「絶景」といっても、そう長い時間眺めていては、食傷気味になってしまうこともあります。チラッと見えるからこその感動、というものもあるわけですが、この参宮線は、まさにそれがあてはまりそうな路線です。
名古屋から快速「みえ」に乗り、伊勢鉄道を経由して紀勢線へ、さらに多気から参宮線に入ります。文字通り、伊勢神宮参詣客の輸送路線として敷かれた路線です。
お伊勢詣りの人々を伊勢市で降ろし、終着の鳥羽に向かってもうひと走り、となるわけですが、地図では海の近くを走っているように思える参宮線も、なかなか海の青を見せてくれません。さんざんじらされて、ようやく左側に海面が広がるのが臨時駅の池の浦シーサイド付近。ここから、ほんの一瞬のオーシャンビューが始まります。海に浮かぶ釣り筏や小さな漁船を眺め、入江の中を築堤で抜けると、あっという間に鳥羽の市街地に入っていきます。参宮線の旅のエンディングを彩る、鮮やかな車窓展覧会です。

池の浦シーサイド~鳥羽間の"海中築堤"を行く快速「みえ」

ほかにも、全国津々浦々、さまざまなビューポイントがあります。自分だけのお気に入りのスポットを探してみるのも面白いのではないでしょうか。
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