愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

知って得する鉄道旅行術

鉄道ライター/安城学園高校教諭
山盛 洋介

第36回 秋こそ信州の旅(1)

秋は、信州が一番美しくなる季節ではないでしょうか。山を彩る錦絵のような紅葉はもちろんのこと、澄み切った青く高い空、白いうろこ雲・・・。民家の軒先には吊るし柿が下がり、りんごが実る・・・。さまざまな「色」が、それぞれの個性を発揮しながら、一枚の壮大な風景画を描いているかのようです。

そんな秋の信州。時間に追われず、ゆっくりとローカル線に乗って旅したくなります。
旅先としてお勧めしたい路線をご紹介しましょう。

1.JR篠ノ井線

 名古屋から中央西線に乗り、木曽谷を通り抜けると、塩尻に到着します。ここ塩尻から、篠ノ井までの路線がJR篠ノ井線。名古屋から特急「しなの」が直通していますが、ぜひ各駅停車に乗り換えてゆっくり進みたいところです。
 始発駅の塩尻といえば、県内有数のぶどうの産地、そしてワインの名産地です。旅の最初からいきなり一杯、というのも、鉄道の旅ならでは。駅からタクシーで10分ほどの桔梗ヶ原地区などに点在するワイナリーを訪ねて、お気に入りの1本を手にするのもいいものです。
 さて、各駅停車に乗り込んで15分ほどで着くのは松本。県内随一の都市ですが、北アルプスの風が吹き抜けるさわやかな町です。賑やかな市街地を散策しているうち、松本城に行き着きます。戦国時代に建造されたことから防御的な機能が重視されていて、外観も黒壁となっています。歴史的な背景もさることながら、この城と、澄み渡る青空のコントラストは、お見事の一言に尽きます。秋、ぜひ眺めていただきたい風景です。
 さらに篠ノ井線の旅は続きます。信濃大町方面への大糸線を左に分けると、列車は犀川を左側に眺めながら走ります。松本から2つ目の明科で途中下車。駅から10分ほど歩いていくと、犀川のほとりに立つことができます。日本一長い信濃川の支流で、この川の水は延々と日本海まで流れていきます。そんな悠々たる流れを眺めながら、次の列車までの時間をじっくり過ごすのも一興ですね。
 冠着トンネルをくぐると、右手の風景が一気に広がります。日本三大車窓にも選ばれた姨捨です。眼下には善光寺平(長野盆地)の大パノラマ。駅がそのまま展望台になっているといっても過言ではありません。ここは、ぜひ途中下車をして、次の列車が来るまで眺望を楽しみたいところです。この姨捨駅は急勾配の途中に設けられたスイッチバック駅で、特急列車は駅の下を素通りしてしまいます。各駅停車の列車だけが引込線に入り、姨捨に停車するのです。そういう意味では、まさしく各駅停車の旅でこそ味わえる旅の醍醐味です。塩尻や松本で駅弁(とワイン?)を仕入れ、姨捨で景色を眺めながら信州の味覚に舌鼓を打つ、なんていう旅のプランは、自信を持っておすすめできそうです。

秋空に映える松本城
姨捨駅からの善光寺平の眺め

2.長野電鉄

 篠ノ井線の列車で長野に着いたら、地下ホームへ降りて、長野電鉄(「ながでん」)の電車に乗り換えてみましょう。長野から須坂・信州中野・湯田中へと向かう私鉄路線で、冬場には志賀高原をめざすスキーヤーの足にもなります。
 各駅停車に乗って、善光寺下で下車。地上に出て坂道を登り切ると、善光寺の境内が見えてきます。宗派にとらわれず、善男善女が全国から集まる寺院で、いつも参詣客が途切れることがありません。本堂で静かに手を合わせれば、信州の秋空のように、心も清らかに澄み渡るかのようです。
 心の洗濯を終えたら、再び電車に乗り込みます。長野市街を後にすると、善光寺平の豊かな自然を眺めながらの旅となります。千曲川を渡り、蔵の町としても有名な須坂を過ぎると、小布施が近づいてきます。
 小布施は、秋にはぜひ訪れたい町です。名物の栗菓子は絶品で、栗を使った会席料理なども楽しめます。栗ソフトクリームなる一品も。信州の秋を舌で実感できることでしょう。また、小布施は、葛飾北斎が80歳を過ぎてから4度も訪問したというところ。町の真ん中にある「北斎館」では、北斎の作品を鑑賞することができます。どこまでも写実的な北斎の画風は、見る者に何か元気を与えてくれそうな気がするのは、私だけでしょうか。
 りんごが実る沿線風景を楽しみながら、さらに旅を進めていくと、終着の湯田中に到着します。湯田中温泉、渋温泉をはじめ、志賀高原方面への乗換駅となり、駅前はいつも賑やか。ここまで来たら、湯浴みを楽しんでから帰途に就きたいものです。駅のすぐ裏手にも日帰り入浴を楽しめる施設があり、旅の締めくくりにはもってこいかもしれません。

いつも参拝客でにぎわう善光寺の境内
小布施の栗料理に舌鼓
知って得する鉄道旅行術
このページの一番上へ