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知って得する鉄道旅行術

鉄道ライター/安城学園高校教諭
山盛 洋介

第25回 飯田線・各駅停車の旅(2)

大嵐駅の前を流れる天竜川に、立派な銀色の吊り橋が架かっています。この橋を渡った対岸は、今でこそ愛知県北設楽郡豊根村となっていますが、かつては"日本一のミニ村"として有名であった旧富山村でありました。

富山村時代の標識

旧富山村は、人口およそ200人あまり。村長さんをはじめ、赤ちゃんまで村人全員が顔見知りという特異な村でした。その地形環境から隣村との合併も困難で、小規模のままで現代まで残ってきました。佐久間ダムの建設時には当時の中心集落が水没し、多くの村民が離村したため、離島を除くと日本で最も人口が少ない村となりました。
県道を15分ほど歩くと、集落が見えてきます。これが富山村の中心集落で、役場や駐在所、消防、村議会、郵便局など公共施設がすべて近在に集まっています。役場の近くには村営喫茶店「コーヒーショップ栃の木」があります。村の若い衆が集まる場をつくろうと、村の予算でつくられたお店で、天竜川を見下ろしながらコーヒーで寛ぐことができます。

富山村の中心集落

急斜面に位置しているため平地はほとんどなく、民家の間を通り抜ける道はほとんどが階段道。そこを散策しているうち、村の方々と挨拶を交わすことも。村民みんな顔見知りですから、よそ者が歩いていれば一目で分かるわけですが、「こんにちは」と温かく接してくれる方もいて、こちらもうれしくなってきます。中心集落から30分ほど歩いていくと温泉もあり、平日には村営バスの運行もあります。

村を後に、駅へ戻り、さらに下り列車に乗り込みます。次の駅は小和田。皇太子妃・雅子さまの旧姓と同じ字だということで、一時期は大ブームになった駅なのですが、実のところこの駅の周辺には民家がなく、歩いて15分ほどのところに1軒あるのみ。自動車でも到達できず、まさに飯田線が唯一の交通機関。近ごろは「秘境駅」として訪れる人も多いようですが、人の気配がしない静かな駅です。駅前というと普通は賑やかなイメージがありますが、ここは駅前がそのまま大自然。ふらっと途中下車をして、そのまま次の列車まで森林浴や昼寝というのも楽しいものです。

小和田駅

小和田を出ると、飯田線は長野県に入ります。中井侍、為栗、田本、金野、千代と、駅のまわりに民家が僅少の駅をいくつも通り過ぎながら、列車は天竜川沿いの断崖の上を注意深く走っていきます。このあたりで、飯田線の旅も、ようやく半分です。

 
断崖にへばりつくような田本駅

(次号に続く)

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