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インターネット公開文化講座

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カラーコーディネーターに聞く色の活用術

栄中日文化センター講師
竹内 ゆい子

呪術としての色彩

 人類がいつ頃から色を使うようになったかは明確ではありませんが、約7万年前(第Ⅱ氷河期の末頃)ネアンダール人には埋葬の習慣があり、遺骸は赤褐色(赤土)や黒(木炭)で飾られていたといわれます。この習慣は後の旧人後期のクロマニヨン人にも見られ、原始人によって「赤」、「白」、「黒」、「黄」が呪術的な役割をもって使われていたようです。人類最古の絵画は、約3万年~2万5千年前に描かれたと思われるラスコー(フランス)やアルタミラ(スペイン)の洞窟壁画ですが、地下十数メートルの壁面に赤、赤褐色、黄、黄褐色、黒、白で巨大な動物の絵が驚くほどの迫力で描かれています。原始人たちは彼らの生命の糧となる動物たちに祈りを込めて彩色したのでしょう。また、彼らは戦闘や求婚の場面では化粧をする習慣もあったようです。
指輪のイメージ画像  古代では、色彩は決して抽象的なものではなく、色とその物体とは切り離して考えることのできないものでした。その最も単純な形が共感的呪術といわれるもので同じ色が同じものに効くといった信仰です。たとえば、雨が欲しい時には、黒雲の黒い色を真似て黒い色の服を着て、雨に関する儀式では全ての色に黒を用いていました。古代インドでは、ハゲの治療法は黒い服を着て黒い色の食べ物しか食べない医者が黒い羽状の植物から調合した薬を黒い鳥が巣から飛び立たないうちに患者の頭に塗らなければならなかったといいます。このような異教の風習はキリスト教がヨーロッパに普及してからも続けられ、中世の医学書では赤い布は止血に効くと述べ、麻疹にかかった子供は赤い布で巻くようにと勧めています。また、宝石のルビーにも同じような止血の効果が説かれており、紫水晶は葡萄酒の二日酔いに効き、黒色のゆりかごは暗闇の恐怖から子を護ると述べています。May Day(5月1日)には緑の豊作を祈願して緑の服を着る風習は今でも続いています。
土星のイメージ画像  人類は古くから、生を祝し、死からの再生を祈願する呪術として「色」を象徴的に用いてきました。古代から中世にかけて「色」は宇宙の象徴であり、呪術と一緒に存在したのです。古代バビロニアに起こり、ペルシャ、エジプト、ギリシャに伝わった占星術は13世紀頃からヨーロッパに普及し、天文学とともに次第に定着していきました。なかでも人間の生誕や死が月と干潮との因果関係にあることが、科学的な根拠を与えられることで一つの学問として確立しました。大都市には占星術師が雇用され、大学にも占星術の講座が作られ、16世紀のルネッサンス期には人々の日常生活にまで大きな影響を及ぼすようになりました。あの有名なノストラダムスは16世紀に活躍した医者であり、占星術学者です。いて座のイメージ画像王道(太陽の通り道)十二星座の基本的な性格は、地上のあらゆるものと対応すると考えられ、たとえば、射手座(人馬宮)は馬を支配しているので人馬宮の護符を馬の道に付けると馬が健康になるというように、色彩もまさにそうした星座の力の影響を受けていると考えられていました。たとえば、茶色、黄土色、暗褐色などは土星の影響を受けており、サファイア、エメラルド・グリーンのような緑色は木星の影響を受けており、燃えるような赤は火星の影響を受けているというのです。この考えがやがて誕生石へと発展していきます。誕生石を身につけることで幸運を招いたり、魔除けになるという習慣は、「一つのものが全てであり、全ては一つのものから生み落とされた」という錬金術の秘儀や占星術の奥義が現代に生きている証拠です。
占いのイメージ画像  日本や中国では、星占い以外に、十二支占い、四柱推命、風水、動物占いなどが生活に浸透しています。これらは古代中国で生まれた宇宙観を表わす思想、陰陽五行説が基盤にあり、占星術と同じように色が大きく関係しています。
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