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インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

カラーコーディネーターに聞く色の活用術

栄中日文化センター講師
竹内 ゆい子

古典文学と色彩

日本は海に囲まれた島国で、温帯に属する東アジアの季節風域にあるため、四季が大変はっきりとした国です。そういった気候と風土は日本人の生活文化に強い 影響を与えてきました。平安時代、政策のひとつとして行われた遣唐使の中止により、中国の唐様に対して和様と称される王朝の雅やかな文化が花開きました。 その基調をなしたのは、京都の美しい景観であり、四季の彩り豊かな自然の移り変わりであったと思われます。貴族たちの関心は、微妙に移りゆく草木花の彩り や陽と月の陰影をいかに俊敏に捉え、いかに表現するかということでした。漢詩に変わって、かな文字、三十一文字よりなる和歌が詠まれ、より繊細な情感の表 現を生み出しました。
貴族社会では、娘たちを天皇や高位の貴族に嫁がせるために教養高く、美しい心を養えるよう力を注ぎました。そんな背景から後宮の女性たちによる文学が生ま れました。後宮とは、天皇の居所の後ろにある宮殿をさし、後宮の女性たちとは、この殿舎に起居し、奉仕している女性たちのことです。上層女官から従女まで 様々な階層の多くの女性たちが生活し、華やかなサロンを形成していました。中宮(天皇の妻)のまわりには、和歌に堪能な教養のある容姿端麗な女性たちが集 められました。この後宮から、世界的な文化遺産である「源氏物語」や「枕草子」などの女房文学が生み出されたのです。一条天皇の中宮、彰子と定子、それぞ れの家庭教師が紫式部と清少納言です。二人は永遠のライバルといってもいいでしょう。
中学校の古文の教科書に登場する二つの作品をあらためて読んでみますと、色彩感覚に優れた日本独自の素晴らしい文学であると感動します。「源氏物語」の著 者、紫式部は色彩学者ではないかと思われます。「紫」という色を主旋律として、物語は紫とともに進行し、運命をともにしていきます。光源氏の父、桐壺帝を はじめ、桐壺の更衣、藤壺の更衣、葵の上、若紫など、すべて紫のゆかりの人をひきそろえ、その中心に光り輝く源氏の君をおく。色彩学的に紫と黄はお互いに 映え合う絶妙な補色関係なのです。一方、「枕草子」の著者、清少納言は配色デザインの天才ではないかと思われます。美しい日本の四季を鋭い観察力と美意識 で表現した色彩感覚豊かなエッセイストです。「枕草子」の有名な冒頭を紹介しましょう。景色が浮かんできませんか?

春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは、
すこし明かりて、紫だちたる雲のほそくたなびきたる。


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