侘・寂の茶（２）

侘茶の始まりは村田珠光によると考えられている。珠光（1423～1502）は15世紀に活躍した人。当時の資料はあまり残っていないが、奈良の人で京都に出て、八代将軍足利義政や能阿彌等からも茶の湯を学んだようだ。また、一休宗純（1481年歿）に参禅して、有名な圜悟克勤の墨蹟を印可の証として貰ったと伝えられるが歴史的な事実かは定かでない。この墨蹟は後に利休が所持したと神谷宗湛による「宗湛日記」に記されている。

　いずれにしても、珠光が侘茶の創始者と言われるのは、当時、唐物の茶道具が中心であった茶の湯に和物の価値を認めて導入を図ったことにある。その事実は既にお話した「淋汗茶湯」で知られる古市澄胤に送った「心の文」と名付けられた珠光の手紙にある。その手紙には次のように記されている。

　茶の道で「第一悪き事は心の我慢我執也、巧者をそねみ、初心の者をば見下す事・・、この道の一大事は和漢之境を紛らかす事、肝要、用心あるべき事也、又、当時、冷え枯るゝと申て、初心の人体が備前物、信楽物なとを持ちて、人もゆるさぬたけくらむ事、言語道断也、・・」と続く。「和漢之境を紛らかす」とは中国からのものばかりでなく、日本のものを評価導入和合して用いることの大切さを述べている。備前焼や信楽焼などの道具を用いるためには「冷え枯れる」精神の必要性を説いている。これが侘茶創始の原点だ。しかし、前歴に「和漢朗詠集」、夢窓疎石に見る和漢兼帯があってのことだ。

　日本の焼き物の代表でもある備前や信楽の茶碗は中国物に比して下手なものと見られていた。珠光はそれを評価して、茶の湯に用いることを進めた。中国物は対称性で完全無欠型を尊ぶ。一方、日本の焼き物は非対称で不完全型が多い。それ故に「冷え枯れた」精神がその理解に不可欠だった。一見、粗相なものにその価値や美を見出すことにある。

　本シリーズで取り上げたことがある岡倉天心が「茶の本」で、侘の精神、美意識は「不完全性」にその価値を認めることにあると述べたのも、そこにあるのだ。

　侘の精神は、まず、中国物一辺倒の既成概念的な価値観の否定から始まったと判る。つまり、新しい創造には、そうした発想が必要なことは今も変わらない。
既成概念は何となく納得したような安心に陥り精神が固定化する。そして、安易な思考停止に陥る。

圜悟克勤（えんごこくごん）

　侘茶の始まりは村田珠光によると考えられている。 珠光（1423〜1502）は15世紀に活躍した人。当時の資料はあまり残っていないが、奈良の人で京都に出て、八代将軍足利義政や能阿彌等からも茶の湯 を学んだようだ。また、一休宗純（1481年歿）に参禅して、有名な圜悟克勤の墨蹟を印可の証として貰ったと伝えられるが歴史的な事実かは定かでない。こ の墨蹟は後に利休が所持したと神谷宗湛による「宗湛日記」に記されている。

　いずれにしても、珠光が侘茶の創始者と言われるのは、当時、唐物の茶道具が中心であった茶の湯に和物の価値を認めて導入を図ったことにある。その事実は 既にお話した「淋汗茶湯」で知られる古市澄胤に送った「心の文」と名付けられた珠光の手紙にある。その手紙には次のように記されている。

　茶の道で「第一悪き事は心の我慢我執也、巧者をそねみ、初心の者をば見下す事・・、この道の一大事は和漢之境を紛らかす事、肝要、用心あるべき事也、 又、当時、冷え枯るゝと申て、初心の人体が備前物、信楽物なとを持ちて、人もゆるさぬたけくらむ事、言語道断也、・・」と続く。「和漢之境を紛らかす」と は中国からのものばかりでなく、日本のものを評価導入和合して用いることの大切さを述べている。備前焼や信楽焼などの道具を用いるためには「冷え枯れる」 精神の必要性を説いている。これが侘茶創始の原点だ。しかし、前歴に「和漢朗詠集」、夢窓疎石に見る和漢兼帯があってのことだ。

　日本の焼き物の代表でもある備前や信楽の茶碗は中国物に比して下手なものと見られていた。珠光はそれを評価して、茶の湯に用いることを進めた。中国物は 対称性で完全無欠型を尊ぶ。一方、日本の焼き物は非対称で不完全型が多い。それ故に「冷え枯れた」精神がその理解に不可欠だった。一見、粗相なものにその 価値や美を見出すことにある。

　本シリーズで取り上げたことがある岡倉天心が「茶の本」で、侘の精神、美意識は「不完全性」にその価値を認めることにあると述べたのも、そこにあるのだ。

　侘の精神は、まず、中国物一辺倒の既成概念的な価値観の否定から始まったと判る。つまり、新しい創造には、そうした発想が必要なことは今も変わらない。 既成概念は何となく納得したような安心に陥り精神が固定化する。そして、安易な思考停止に陥る。

圜悟克勤（えんごこくごん）