文化講座
谷川徹三と茶(Ⅰ)
愛知県出身の有名な哲学者谷川徹三もお茶が日本人の心に大きな関係があると述べている。哲学者徹三は日本の横笛名人・名生が大好きで、詩人谷川俊太郎の父親だ。
徹三は昭和12年に外国人記者に向かって「外人のための講演・再説日本人のこころ」と題して講演を行っている。その講演は後に岩波書店から「日本人のこころ」として出版されているから読むと面白い。
通常、その手の講演では、日本や日本人の特殊や特異性について語る人が多い。しかし、徹三は「私は日本人の性格や心理の特殊性について何かお話しいたすことになっているのでありますが、私としては、さういふ特殊性よりもむしろあなた方との共通性を力説したいほどです」と述べている。日本の優れた特異が何かを知るためには、世界に通用している基本的な共通部分を理解した上でなければならないことを示している。
例えば、日本人は「特異、特殊」だから「癌の告知」は行わない方が良いとよく言う。考えて見れば、今や日本人は世界中で生活をしている。アメリカやヨーロッパに滞在している間に癌で入院することは起こる。そうした状況で、告知に対して、日本人は特殊とは言われていない。つまり、国内で「告知しない方が良い」と思っていることは日本人が特異だからではなく、閉鎖社会内で、何か別の理由が有って、御都合的に言っているだけではないかと考えなければならない。
そうした表面的な独善性や習欲によって、日本人が特異であると思い込んでいる現実は少なくない。
今日、日本人が持つ特異が真に優れたものであるためには、人類が歴史的な過ちの上に自己反省をしながら築いてきた普遍性に通じたものでなければならない。
「一体に日本では色々な遊技やスポーツまで『道』としての心の修業をめざすようになっています」「特殊性はおもてにあらわれた形式です」「その背後にある普遍的なものにまで掘り下げられて、初めて全面的真実を語るものとなります」と徹三は述べる。
次は茶の湯で普遍性に通じた特殊性に注目して見よう。