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知って得するお茶ワールド

信天翁(アホウドリ)喫茶主
医学博士 山中 直樹(宗直)

赤瀬川原平と茶(Ⅰ)

「老人力」(筑摩書房)で多くの老人を勇気づけた赤瀬川原平は現代尊敬すべき茶の湯者。 老人力発想の原点は茶の湯からなのだ。「芸術原論」「千利休 無言の前衛」(共に岩波書店)は茶の湯の思想、芸術本として名著。 日本と世界の文化を理解するためにも、是非、一読をお薦めしたい。勅使河原宏監督による映画「秀吉と利休」(野上弥生子原作)のシナリオを書いた人でもある。
愛知県にとっては旭が丘高校出身でもあり、身近な人だ。

前衛芸術活動家である赤瀬川は芥川賞作家でもあり、路上観察学会を展開する。 無為自然に路上をただ観察して歩きながら、自分の感覚的反応を頼りに路上物質を写真採集するのだ。
赤瀬川の言う「自分の中に組み込まれている自然の力を観察するわけである」。 つまり、観察者は自分の感性として何か面白いと思って、写真として採集するのだ。
これが茶の湯で言う「見立て」の行為と共通することになる。 「路上の無為の物件に面白さの価値を見出す」発見なのだ。

利休達が行った「茶の湯の見立て」には限りがない。 南蛮の壺を茶壺に、釣瓶を水指しに、魚籠を花入れに用いたりした。 中国や朝鮮等で日常茶飯に用いられていた生活雑器を茶の湯に導入したのも「見立て」なのだ。 カフェオレボールを茶碗に見立てて用いることも出来るように、 今日でも意識すれば私達の身の回りにあるものをいくらでも「見立て」ることができる。

茶の湯で行われた「見立て」の芸術活動は今日最も先端的な芸術活動と言えるものとなっている。 マルセル・デュシャンが既製品の男子便器を展覧会場にたゞ寝かせて置いて有名となった「泉」と言う作品の提示によって歴史的な前衛芸術活動は始まったのだ。

今や芸術活動は従来のように固定化された作品を作者が展覧会場等で一方的に見せて鑑賞してもらうだけのものではなくなってきた。 町筋や公園等日常の場での活動も盛んとなった。作者、見る人双方向の参加が必要となっている。つまり、作者個人による完成した芸術作品は必ずしも必要としなくなり、観察者も芸術活動に加わるのだ。

茶の湯はデュシャンや赤瀬川と共通する前衛性を内包しているのだ。主客がお互いに参加して創造されて行く文化と判る。 たゞ単なる俗物趣味ではない。芸術も科学も人の真似でない創意工夫がなければ価値無しだ。

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